第九幕:強者(四)
守和斗は、相手を舐めていたと反省する。
まさか、ここまでせこい手を使ってくるとは思いもしなかったのだ。
しかも、地位も面子も誇りもあるはずだ。
それなのに、
「――ったく。これは無理だな」
思わず守和斗がもらした言葉に、パーティーメンバーの顔色が青ざめる。
それもそうだろう。見えない壁に隔たれた向こう側には、乾いた血痕に彩られ、肉が剥げ落ちた屍肉の群れが柵になるように張りつき、少し離れたところでは狼の魔物が威嚇するように唸ったり吼えたりしている。
正直なところ、
つまりすべてを倒すしか手段はないのだが、この状態で倒すとなると、キィに大威力の
しかしこの近距離で放てば、トゥの張っているこの結界はもたない。しかも結界が失われるだけではなく、少なからずメンバーにダメージが行く。
その状態で、掃討戦を犠牲0でやれる可能性はかなり低い。
「まあ、仕方ないか。見積が甘かった俺……私が悪いですね。ここからは、
守和斗はそう言うと、一歩前にでる。
直接ぶつける力は、やはりこの世界の力にしておくべきだ。
それに結界も長くは保ちそうにない。下手に強力な一撃はリスクがある。
(手間だけど、ゆっくり細かく斃していくか……)
方針を決めた守和斗は、かるく後ろをふりかえる。
「合図してから、そうですね……ゆっくり5つかぞえてください。その間、みんな動かないように。あと、その間の出来事は、ここだけの秘密にしておいてください」
「な、なにをする気だ……」
狼狽えるカールに、守和斗は微笑だけ返す。
そして赤黒いコートをひるがえし、両手を斜め下に広げる。
同時に、彼は自分が保つ固有亜空間から、1本の日本刀を呼びだして右手に握る。
周囲から、息を呑む一驚を感じる。
さもありなん。端から見たら、いきなり守和斗の手に刀が現れたように見えただろう。
彼はいくつかの亜空間へアクセスすることができ、そこを倉庫のように使っていた。
腰につけていた小袋にいれていた
そして、固有亜空間倉庫の中には大量の武器が格納された武器庫も存在していた。
(問題は
(しかたないから、これだけは俺のやり方で行くか……)
彼は息を整える。
「では、行きますよ。……『ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、ここの、たり』!」
同時に刀を横に走らす。
薙ぐように剣先から飛び立つ見えない気の刃。
それが、結界の向こうに群がっていた10体近くの
――ひとつ……
守和斗はそのまま天井まで跳びあがる。
そして天井を蹴り、前方下へ急加速。
着地。
同時に、正面に迫る1匹の
「『ふるべ、ゆらゆらと、ふるべ』!」
武器庫から、両手に苦無を呼びだす。
片手の指の間に4本ずつ。
左から3匹、右から5匹ずつ飛びかかってくる
腕をクロスして放つ。
すべての苦無は、空中にいた
――ふたつ……
一長足で前方に進み、投げた刀の柄を握り引き抜く。
血振りしながらも、目線は横に。その少し離れた先には、壁に描かれた
「『
戦いながら唱えている呪文は日本語。だから、ウィローたちには意味がわからないだろう。いや、古神道を知らなければ、日本人でも意味がわからないかもしれない。
あとでいろいろと質問されそうだなと思いながら、その場で足を踏みだし、勢いよく掌底を放つ。
その掌底は気の塊を生み飛翔させ、目線の先に在った法術円を粉砕する。
壁ごとベッコリとへこんでいるので、もう新たな
――みっつ……
背後からまだ動ける
凍らせて動きをとめるために、
だが今は古神道の祝詞による言霊を唱えている最中だ。
これに
そこで守和斗は、
そして、口では
「――
正面かざした手の方向一面に氷の膜が張られる。
それはあっという間に冷えた空気の煙を上げながら、その上を進もうとした
――よっつ……
残りの飛びかかってきた
「『
守和斗は刀を床に突き刺す。
刹那、広がる霊気の波動。
だから守和斗は、まず【
そしてその後、【
――いつつ。
守和斗は周りを見まわす。
そこにもう、敵はいなかった。
(まあ、このぐらいゆっくりやれば、さほど不自然じゃないだろう……)
そう思いながらパーティーメンバーの方に向かって歩く。
だが、メンバーは全員、まるで瞳孔が開いたのではないかというような目をして、半分口を開いた状態だった。
しっかりと肝を潰していたのだ。
「……あれ?」
「あ、あれじゃねーよ! なんだよ、今の……ありえねぇ……」
カールが震える声をだす。
「投げナイフ自体は見たことない形だったが……あの技、【
「いや! それもだけど、その前の剣技だ!」
今度はウィローが叫んだ。
それはまるで幽霊でも見つけたかのように震える声で怯えるように興奮している。
「あの
「あの法術円を壊した【
珍しくタウも口を挟む。
「あの距離であの威力は、レベル70はいる。しかもあの体捌き……驚いた」
「それよりも……」
今度はキィが開口する。
「
「そっ、それよりも、もっとすごいことがあるよ、みんな!」
守和斗は初めてトゥの大声を聞いた。
その目は、鳩が豆鉄砲でも喰らったかのように見開いている。
「彼、わたしが知らない
興奮しすぎて支離滅裂になりつつも訴える言葉に、周りがコクリとうなずく。
「そうなの、最初から唱えていたの! そ、それなのに……それなのになんで途中で
「あっ……あはは。気がついたかぁ」
「き、気がつきますよ! わ、わたしこれでも
いつも物静かなトゥが、興奮しすぎて勢いづいている。
守和斗は笑ってごまかそうとしたが、とてもそういう雰囲気ではない。
さてなんて言おう、そう彼が考えていた矢先だった。
隠れながら進んで行った
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