第八幕:強者(三)
「本当にこのまま見捨てるおつもりなのですか?」
アンはクーラに詰めよる。
最初にクーラからアンが聞いていた作戦はこうだった。
まず、【ラフマス】という回復魔法の光球を途中で見つけた
回復効果は生命力でもあるため、
そして、そのままウィローたちのパーティーまで誘導し、ラフマスを消滅させれば
だが召喚された魔物と違い、
燃やすのを避けるとなると、あとウィローのパーティーでまともに
当然、彼らは苦戦する。そこをアンたちが助けることで恩を売って、自分たちが先に進む。彼らを足止めさせて、天下の
もちろん、彼らの後ろから走り抜いて先に行くこともできるが、
しかし、ここにきてクーラは、ウィローパーティーを助けず、
そして今、アンたちは姿をくらます
「別に助けないとは言っていないさ。順番を変えるだけだ。
「で、でも……」
「これは確実なチャンスだ。
「でも、その前に彼らが魔物にやられていたら……」
自分で「やられていたら」と仮定で話しながらも、アンはそれが仮定ではなくほぼ
「彼らがやられるか……それはそれで面倒がなくていいではないか」
「えっ……」
国民を守る
「そ、それはいくらなんでも……」
「馬鹿者! 庶民ならまだしも、彼らは冒険者だ。冒険者はどんな状態でも自分の身を守れなければならない。それができないのは自己責任だ」
「…………」
「やられていたら、それは彼らが弱いのがいけない。そういうことだろう、違うか?」
「ち……違いません」
アンはうなだれる。
強さが絶対。強い者は弱い者を蹂躙できる。けっきょく信じられるのは強さ。
それは、アンが見いだした真理のはずだ。
そしてこの世界は、その真理がリアル世界よりも如実に現れる。強くなければ生き残れない。
(そうだ。あいつらが弱いのがいけない。だから、強い者に食い物にされる……なんだ、正しいじゃないか)
このパーティーは、
それに比べて、ウィローたちは底辺だ。彼らがアンたちに踏み台にされるのは当たり前なのである。
――本当に?
しかし、今のアンには声が聞こえている。それは心の奥底から響いている。別の自分が、「そうではない」「いけない」「助けて」と悲痛に訴えている。
その声が、自分の気のせいなのかどうかわからない。
しかし、あのスワトとかいう男の話を聞いてから、自分の中に誰かいる気がして仕方がなかったのだ。しかも
「おい! あったぞ!」
思考の渦に、パーティーメンバーの声が割ってはいる。
ウィローパーティーが戦っている部屋から続く真っ直ぐと伸びた廊下。
その先にあった小部屋にアンたちも到着した。
そして突き当たりに見えるのは、人の頭ほどある燃え盛る炎のような模様の浮かぶ、楕円型の宝石。それは壁面へ縦方向に埋めこまれ、鼓動するように光を明滅させている。
「よし。これで任務完了だ。みんな中を見張っていろ!」
全員が部屋の中に入り、周囲を警戒する。
その中心をクーラが進み、
そして、その手が
――ダンッ!
それは一瞬のことだった。
誰も対応などできなかった。
全員が一斉に姿勢を崩す。
足場が一瞬で消え失せている。
そして代わりに現れたのは深い闇。
各層が1箇所でしか繋がっていないはずの
それは、まさかの
どこまで続くのかわからない闇に全員が打つ手もなく呑まれていく。
――あんたが信じた力ってのは、こんな細い木の枝さえ切れないものなんだよ。
なぜかあの守和斗の言葉が蘇る。
(ああ、そうか。こんなもんなのか……)
どんなに強い力をもっていても、こんな簡単に瓦解する。
闇に向かって落ちながら、アンは
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