第五幕:学徒(一)
守和斗たちは、村のはずれにあった1軒の家に招かれた。
守和斗が近づいた時、他の者を守るように前にでた女性――セレナ・バレル――の家だった。
4人がけの質素なテーブルに、守和斗以外が座っていた。
セレナに席を勧められたが、守和斗は丁重に断った。
もしかしたら、自分たちは招かれざる客かもしれない。
そう考えると、家主を立たせて自分が座るのは心苦しい。
「――はい。第六の騎士たちから逃げ、ここにたどりついたところ、こちらのセレナさんが、親切にもかくまってくださいました」
「そうか。……セレナ殿。この者を預かる小隊長として、深く感謝いたします」
ファイが、スクッと立ちあがると深々と頭をたれた。
それを見て、慌ててパイも立ちあがって頭をさげる。
「この礼は、本国に戻り次第、必ずさせていただきます」
「いいんだよ。気にしないで」
セレナは少し男勝りな口調ながらも、優しさを感じさせる笑みを見せた。
「それより、隊長さんがそんなことするから、パイちゃんまで立たなきゃならないじゃないか」
「……あ……」
「ほら。まだ怪我が治ってないんだ。座って、座って」
セレナに引っぱられるように、パイが席に座りなおす。
それにともなうように、ファイも「すまん」と頭をかきながら座りなおす。
どうやら探知を恐れてか、回復魔術は使用していなかったようだ。
見た目は、どう見ても12、3才にしか見えないに、なんとしっかりしているのだろうか。魔法を使えば痛みを消せるのに痛みに耐えていたのだ。
しかもこの年で
もちろん自分や妹たちは、もっと幼い頃から戦ってきた。しかし、だからこそ守和斗は常々、他の子供に戦いを味合わせたくないと思っている。
「でも、よくわたくしが第六の騎士に襲われたのをご存じでしたね。それに今までどちらにいらしたのですか? あと――」
席に座ったとたん、パイは息継ぎせずに話し始める。
「――そちらのお2人の連れは、どちら様なのです? 特にそちらの殿方です。ファイ様が殿方と旅をするなど。どのようなご関係なのですか!?」
「お、おいおい。そのように、たたみかけられても……」
「しかし、わたくしはファイ様を守らねばならぬ身。はぐれたとはいえ、結果的にわたくしはファイ様を置き去りにしてしまいました。この上、見知らぬ男と、なにかあったなどあれば……」
パイが、メガネレンズの向こうから敵意のような視線を向けてくる。
だが、守和斗は涼しい顔で受け流す。
怪しまれている自分が説明しても、彼女が納得しないことは目に見えている。
「彼は何者ですか!?」
「あ、ああ。彼か……。彼はそのぉ……話せば、長いような、短いような……」
ファイはセレナがいるためか、どこまで話したものか悩んでいるのか口ごもった。
さすがのファイも、守和斗が別の世界から来たことや、異色の能力を持つこと、さらには敵側であるクシィに関することをホイホイと話せないことは理解しているのだろう。
しかし、その様子にパイがじれてしまう。
「もう! ファイ様! はっきりなさってください!」
「おっ、おお……」
「彼とは、どういうご関係なのですか!?」
赤髪を少し振り乱し、上半身をテーブルの上に乗せるぐらい正面に座るファイへ迫る。
その迫力に、ファイが圧倒される。
「あ、ああ。すまん。えっと……彼は、そのつまり……私のご主人様というか……」
「……ええええぇぇぇっっっ!」
パイが足を怪我しているにもかかわらず、思わず跳ねるように立ちあがった。
そして足の痛みで、「アウッ」と悲鳴を上げた後、セレナに手を借りながらも席に戻る。
それでも驚愕のまん丸目玉は、開きっぱなしだ。
「ファ、ファイ様……まままま、まさか勝手に……ご、ご結婚なされたのですか!?」
「ちっ、ちっ、ちっ、ちが〜〜〜う! 誰が、こんな変態と!」
「変態ご主人様と、ご結婚ですか!?」
「そのうえ、こいつスケベよ」
横から入ったクシィの茶々に、パイが予想以上に反応する。
「なんですって!? 変態スケベご主人様ってことですか! ファイ様、そんな大人の階段を一気に登ってしまわれては……」
「いやっ、まて! パイ! 落ち着け! そんなまちがった階段を登ったつもりはない!」
「ファイ様! 変態スケベご主人様という時点でまちがっています!」
「さらに、ペット扱いだしね」
また入るクシィの茶々で、パイが異常にヒートアップする。
「ぺぺぺ……ペット扱い!? ファイ様は妻ではなく、変態スケベご主人様のペットということですか!?」
「違うわっ! 少し落ちつかんか、パイ!」
「ななな、なんてうら……汚らわしい!」
「……おい、パイ。今、なんて言おうとした?」
「と、ともかく、
「……おい、パイ。今、なんて言おうとした?」
「と、ともかく、その者を成敗して、ファイ様を解放いたします!」
「落ちつかんか、馬鹿者!」
立ちあがったファイに頭を叩かれ、パイは「いたっ」と頭をおさえる。
その様子を見て、クシィがわざわざ日本語で守和斗に小さな声で話しかける。
「……なんていうか、バカ騎士に『馬鹿者』呼ばわりされるのって、よっぽどよね?」
「私は、バカではない!」
それを聞きつけたファイも、釣られて日本語で話す。
「それにパイも、いつもは落ちついた娘なのだが、私を大事に思ってくれるためか、妙に興奮するところがあって。そのまあ、暴走しやすいというか……」
「さすが、あんたの部下ね……」
「なんだと!」
「ファイ様……それ、何語を話していらっしゃるのです?」
「――あっ!」
パイの怪訝な問いに、ファイはあからさまに「しまった」という顔をする。
素直すぎる彼女は、ちょっとおバカなうえに感情を隠すのが本当に下手であった。
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