Endless Happiness⑤

タチの悪い幸福な世界に迷い込んで数日が経ったが、私は今日も相変わらず屋根の上に寝転がっている。

ゆったりとした時間が続いた所為か、最近は戦争のことなど考えなくなっていたが、もうすぐ起きるであろうこの帝国を滅ぼす出来事を考えると、呑気にゆっくりして居られない。


「トールー、今日も居ますかー」


見張り役に見つからないように小さな声で私を呼ぶ声に応える為、私はいつも通り顔を窓に出してみる。

私と目が合ったジュンはぱっと笑顔になってみせるが、あの頃とは随分変わったのにも関わらず、なんの指摘も入ることは無い。


これが虚像の虚しさなのだろうと、いつもこの瞬間にこの世界が、私を惑わせ陥れる為の、都合の良い作り物だと醒める。

この笑顔がもう一度見られるだけで今は満足だが、もしも誰かが私を連れ出してくれるならなど考えていたが、甘えるなと、あの人なら叱ってくれるかなどと考えてしまう。


「今日はなんだか元気が無いのですね、何かありましたか?」


そんな私の憂鬱な気分を感じ取ったのか、ジュンが珍しく聞き手に回ってくれるが、私は笑って誤魔化す。

今も昔もずるいままだと自己嫌悪をしたくもなるが、今はジュンに会えた事で頭がいっぱいらしい。


「のぅ、ジュンは黒騎士であるのか?」


「黒騎士? 私は第1皇女だよ。そんな訳の分からない事より、今日もあの湖に行きたいな」


夢の中の君に聞いてしまうとは、何と最低でずるい事をしてしまったのだろう。

ここに来てから、私はいつもずるして生きて来たのだと、前に進む事に、定めを背負ってただ生きてく事に必死だったんだと、虚しくなる様に力が抜ける。


それからもまた逃げる様に屋根の上から飛び出し、窓から飛び降りたジュンを拾って、いつも2人だけで行く、遠くの森の中にある湖を目指す。

飛龍に姿を変えてジュンを背中に乗せ、速度を抑えながら暫く飛び続ける。


湖に到着する少し前にバハムート型に姿を変え、ジュンを手の中で潰さないように握り、真下にある湖に飛び込む。

垂直に落ちた為、水柱はあまり高く上がらなかったが、顔を出す際に湖から水が少し溢れ出る。


「ぷはぁ……楽しかった」


着ていたドレスのまま湖面に浮かぶジュンの姿を見ていると、こんなに手のかかる娘が居るアドミラル帝も、相当に心労が増えているであろうと思われる。

ユズリハ王妃とは正反対な性格を考えると、これは誰の影響が大きいのか、何日掛けても検討が付かない。


そんな事より、夢の中と言えど、久し振りにこの本来の姿に気兼ねなくなれると言うのは、非常に気持ちが良い。

龍力を使って辺り一面に花を咲かせ、神域結界を張って、暫く羽を休める。


神域結界によって出現した、宙に浮く紅の魚を口に入れるが、何も驚く様子が無い為つまらない。


「おぬし、ドレスを来ておるのによぅ浮けるのぅ。浮き輪になっておるのはその胸か?」


「セクハラドラゴンは出て言って良し、この湖が穢れるでしょ」


「辛辣じゃのぅ、まぁ出ていってやるわ。その代わり帰りはその足でな」


有無を言わさず飛び去ろうとすると、徐々にに私の物になりかけてきた神域の中で、異質な魔力とも何とも言えない力が、木の裏に隠されていた。

潜んでいる間者なら逃すまいと、木に爪を突き立てて、出来るだけ脅す威力で粉砕する。


「なんと……なんじゃ……」

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