子犬⑦

「ブリュンヒルデ!」


「私はカミラだクソが、掴んでいる私の手を離せ」


露骨に嫌な顔をするカミラは私の手を叩いて振り解き、代わりに小さな猫の人形を握らされ、傍らの小さな机からチーズケーキが乗った皿を手に取る。

フォークで先を崩して持ち上げると、自分の口に運んで咀嚼する。


「お前が食べるのかよ、私には何かないのか」


「これはお前のだ、だがずっとうなされていたお前に手を握られていたんだ」


「嫌な夢を見たのはお前の所為か、小さな手だなお前の手は。そんな所にも女らしさがあったとは、その大きな胸以外にも女らしさがあったとはな」


「これは無い方が良かったな、女など既に捨てた。結婚というのに憧れていたのも、もう何時の話だろうな」


「街の教会で白を基調としたウェディングドレスを着て、皆に祝われながらフラワーシャワーを浴び、次のやつをブーケトスで……」


「いつの話だ、やめろそんな恥ずかしい思い出。なんで覚えてるんだクソが」


私の上に跨って不敵に笑ったカミラを引き剥がそうとするが、両手を押さえられて、肩の包帯を外して、傷口の周りを指先で撫でられる。


「誰か来てくれ! ケモミミの化け物に殺されてしまう!」


「おいおい連れないな、生娘の様に騒ぐなって可愛い子ちゃん」


「んん、んぁぁ!」


首のネクタイを外して前屈みになって、私の口を胸で塞いだカミラに、ベッドの木枠に手を括り付けられる。

拘束出来て満足そうに上体を起こして、肩の傷に口付けして、舌で容赦無く掻き回す。


「んん! んぁぁ、くっ……」


左手で口を塞いだカミラは血にまみれた顔を上げ、唇に付いた血を舌で舐め取り、満足そうに微笑む。


「相変わらず不味い血だな、だがお前の匂いが濃くて良い」


「匂いとか言うな馬鹿……何でお前はからかうのが好きなんだよ、楽しいかこの野郎」


「くふふふっははははっ、可愛い顔をするなお前は。楽しいさ、あぁ楽しい。照れるな照れるな、だがその笑顔も良い」


「あぁーもうっ……疲れた、寝るからな私は。お前は嫌いだカミラ、代わりに抱き枕を寄越せ。それが無いと落ち着いて寝られん、誰かの手を掴む事も無くなるであろう」


「なら失礼する、私が最適だろお前には。生憎だがこの国は抱き枕などと言う文化が無い。お前みたいなクソ弱虫が居ないからな」


「ベッドに入って来るな、獣臭くなるだろ」


「ならん、なったとしても我慢しろ」


「くせっ毛がもふもふで邪魔じゃ、意外と花みたいな匂いがするのだな。まぁ、これだけ肉付きが良いなら変わらぬか。おやすみカミラ」


私に背を向けて動かなくなったカミラを抱きしめて瞼を閉じ、もふもふの髪に顔を埋めて、頭の上の耳を咥える。


「ひゃっ、耳はやめろ耳は、お前に背を向けると駄目だな昔から」


「昔と違ってふわふわだな、荒れてた頃とは大違いだ。結構丸くなったし、結婚焦りだしたか?」


「貴様……焦って何が悪い、私だってまだ少しだけ結婚に憧れてるんだぞ。こうしてお前なんかと抱き合ってる暇など無いと言うのに」


「今更出て行かせると思うか、私が次に目を覚ますまで付き合え。意外と落ち着くな、お前は」


「……ならもう一度だけ付き合ってやる、次に起きたら朝だ。訓練は無いからスイーツ巡りに付き合え」


「付き合うだけでなく全て奢ってやる、私が作っても良いが、気分転換で外を歩くのも悪くない。もう寝る」


「あぁ」

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