自分が生き甲斐なやつは②

陽が一番高い所で居座っている中、庭園の縁側で猫と戯れていると、庭で刀を振って鍛錬をしていたスメラギが、私の隣に刀を置いて腰掛ける。

そのまま倒れ込んで背中を着いて、手を広げ瞼を閉じる。


それを横目に見ながら猫の両手を掴んで、ぷにぷにとした肉球を触りながら、愛らしい表情を愛でていると、尻尾を突然何かに捕まえられる。

背筋がゾクッとして反射的に振り返ると、スメラギが私の尻尾を抱き枕にして、汗が滲んだ額を埋めていた。


「スメラギよ、尻尾は敏感じゃ。言いたい事は分かるであろう」


「そうですね……優しくですか?」


「全然違うわ戯け、触るなという事じゃ。分かったら離すと良い」


「なら、今から打ち合いしましょう。それで私が勝ったら好きにさせてもらいます、もし私が負けたら今日は触りません」


置いてあった木刀を二本持って素早く立ち上がったスメラギは、庭に出ていって真ん中で止まる。

不平等な箇所もあったが、仕方無く勝負に乗る為に立ち上がると、木刀が一本飛んでくる。


それを掴んで構えると、鹿威しが鳴らす音を合図に勝負が始まり、スメラギの瞬間的に間合いを詰める跳躍で、早くも後方に押される。

空を切った居合は相も変わらず鋭く、オシナと同等の才能を持っていて、まるで小さなオシナを見ている様な気がする。


この国も安泰かと呑気に考えていると、すぐに次の攻撃に移そうと動いた手元が、オシナがする動きとは、少し違う動きをする。

地面に刃を突き刺して、力任せに地面を抉って木刀を切り上げ、そのままの勢いで回転して斬撃を放つ。


それを全て見切って攻撃に移すと、ぎりぎり柄で受けたスメラギが、踏ん張って地面を滑っていく。

互いに突きの構えに変えて踏み込むと、刀身が脇の下に入り、取っ組み合う形になる。


「しまっ……」


「せぇっ!」


私の体を抱え込んで投げようとしているスメラギの足を、尻尾を使って薙ぎ払い、逆に転倒させる。

トドメの代わりに顔の横に刀を突き立てようとしたが、足を振り回したスメラギに足払いされ、隣にあった池に落水する。


「九条流朧月夜」


「圧壊」


ミョルニルでスメラギの木刀を砕き、パラシュで足下を崩し、体当たりして馬乗りになる。

抵抗するスメラギの手を交差させ、顔の隣で両手の平に膝を乗せる。


「私の勝ちじゃな」


「反則負けですよ、武士道に反します」


「私はドラゴンじゃ、故にミョルニルとパラシュはありだ。勝負には負けたくないからのぅ」


不服そうなスメラギの頬を指で突っつき、前転して上から退く。

冷めた目で私を見るミョルニルとパラシュは、呆れた様な顔をしていたが、何も言わずに縁側に座る。


「今のはまぁあんたの勝ちじゃない? 誰も武士の戦いとは言ってないし、そもそも私たちは侍じゃないし」


「感心はしなけいけど、確かに打ち合いと言う目的は果たせたはずじゃないか」


「そう言う事じゃスメラギ、私は負けず嫌いだからな。反則ギリギリと言う事で今回は引いてくれぬか?」


「はぁ、ならば明日よろしくお願いします。戦場に出たら先程の様な事は当たり前、勉強になりました。では、この後母上に呼ばれていたのでした。失礼致します」


潔いスメラギを見送って2人の方を見ると、今度は自らを携えて私の手を引く。


「構えなさいクソドラゴン、今度は出し惜しみ無し」


「目標捕捉、僕も全力でフォローするから。あれは見た事も無い物体だね」


2人が見上げる空を見てみると、確かに見た事が無いほどの大きな物が、こちらに向かって来ていた。

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