自分が生き甲斐なやつは①
慌ただしく部屋に入って来たトコハナを椅子にかけさせ、話を聞く為に、部屋に常備されていたお茶を淹れ、湯呑みと茶菓子を出す。
数人の子どもに連れてかれたミョルニルとパラシュが席を外し、1体1での、大人の話し合いになる予感がする。
この国を追い出されるのか、それともまた大きな勢力が現れ、戦線を維持出来なくなったのか、悪い方向ばかりに向く思考に惑わされ、落ち着かない手がつい髪に伸びる。
それに対して、深呼吸をしてお茶を口に運んだトコハナは、腰の刀を机の上に置き、戦場で拾ったであろう、敵勢力の鎧の一部を隣に置く。
その鎧片を手に取ってよく見てみると、消えかかってはいるが、薄らと、確かに見覚えのある刻印が刻み込まれていた。
「確かに……これは神の加護が施されておるな、それも並のものではない。しかもこの鎧は人間の国のもの」
「そうなのです、この国からそう遠くない、デルタイル帝国のものです。そしてこの刻印は……」
「言うな、まだ確証を持てた訳ではなかろう。ただ類似しておると言う可能性もある、先読みのし過ぎは無駄な事じゃ」
「今はまだ、ですか。ですが覚悟はして頂きます、これが原因でこの国が揺らぐ様な事があれば、貴方は国家転覆罪により罪人となります。その時は、天下四輪が1人、この
「そうならぬ事を祈る、そちらを見よう」
トコハナが持って来た鎧片を机に置いて、次は日本刀を手に取り、刀身や刃の状態を確かめる。
特に異常は見られないが、武器が専門外なのを知っている彼女がわざわざ見せる理由は、粗方想像はついていた。
それを確かめる為に刻印を解いていくと、既に保っているのが奇跡な程ぼろぼろな、神の加護が施されていた。
その神力を辿っていくと、異質な神力が奥に隠れていて、神力と呼べるのかどうかも怪しい。
いつもトコハナが使っているこの刀は、私の胸から抜き出したものだが、自分の体に入っていた事も知らないし、入っているなんて思いもしなかった。
それなのに私の神力ではなく、全く違う神の神力が流れていて、しかも特殊と来た。
「なんじゃこのぐちゃぐちゃな加護は、まるで覚えたての子どもがやったみたいじゃな。雷刀トールか、自分の名が付いた刀など、ムズ痒いものじゃな」
「貴方の体が生み出した物なんですよ、何か心当たりがあるのでは? 神核が2つある場合も考えておかねばなりません」
「それは不可能だ、神核を2つ有するには2つの命が必要となる。私はトールでありそれ以外ではないのだ、力を封じているとは言えど、それは変えようのないものだ」
「そうですね。では、この刀の加護を貴方に施し直して貰いたいのです。雷刀トールの持ち主である貴方なら、この刀の真価を引き出せるのではないかと」
納得出来るような出来ないような気もするが、加護が消えてしまうより、今の内に施し直してやった方が良いだろう。
龍力と神力を混ぜて術式を組み上げ、魔力増強と、折れないように刀身を薄い膜で覆わせる。
「完成じゃ、案外以前の謎の加護に遠く及ばぬものだな。加護を授けるなど初めてだが、これがなかなか上手くいかぬものだ」
「ありがとうございます。あら、随分と可愛らしい加護なのですね」
鞘の中に戻した刀を持ったトコハナは、私の掛けた加護に対してそう言い、違和感が生じた刀を素早く走らせる。
以前よりも速く鋭くなった刃が空を切る音が響き、刀の後を追うように電気が虚空に走る。
「可愛らしい加護ですまぬな、私に出来るのは軽量と残雷だけなのだ」
「これはこれで素晴らしいですよ、手から伝わるものだけで判断するのは、昔から私の駄目な癖ですね」
「そうじゃな、おぬしはそう言う悪い所がある。じゃがおぬしにはもっと良い所がある、私がおぬしを嫌悪せぬ理由だ、それだけでは不十分かの?」
「あらあら、貴方の方が余程大人ね〜。私も早く悪い癖を直さないとね〜」
「もう少しだけ気を張っておけ、いつものゆるゆるに戻ってきておるぞ。威厳は大切であろう、それに生きた年月であれば私の方が遥かに上であろう」
「そう言うトールも堅苦しいままね〜、2人なんだから気を抜いても良いんじゃなぁい〜? 痛い所は無い〜? 私が痛いの痛いの飛んで行け〜ってしてあげましょうか〜?」
相変わらず子ども扱いしてくるトコハナに返事をせず、椅子から立ち上がって部屋から出る。
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