叫び続けて③

ミョルニルとパラシュを携え、打ち合って数分後、息を上がらせず、更に汗ひとつかいていないトコハナは、満足そうに刀を鞘に収める。

一方的に峰打ちを受け続けた私は地面に仰向けに倒れ込み、人型に戻った2人に挟まれて、白い雲が流れる空を見上げる。


「君もまだまだだね宿主」


「本当に使いこなせてない、あんたハゲるの?」


「パラシュには謝るが、ミョルニルには何も言わん。確かに私は強くない、だがトコハナは圧倒的であろう。打ち合いの最中に服の乱れまで直されてしまった」


「ちょっと、私にも謝れ。私と言う最強の武器がありながら、何で普通の刀の相手に負けるの?」


ミョルニルの口を手で塞いで黙らせ、暫く静かに空を見る。

周辺国とは比べ物にならない程澄んだ空気を肺に入れ、ゆっくりと龍力を混ぜながら息を吐く。


何も考えないつもりでいたが、ふとクライネは元気なのか、そんな疑問が浮かび上がった。

この手で一度掴んだそれが、幻想ではないのか、100万年の昼寝の中の、ほんの一時期見ている夢ではないのか、そんな事ばかり考えては不安になる。


そんな不安に呑み込まれそうになると、ミョルニルとパラシュが、同時に私のお腹を叩く。

ぴょんと立ち上がったミョルニルに対し、パラシュはお淑やかに立ち上がるが、正反対の2人は、私に向けて手を片方ずつ差し出す。


「あんたにそんな顔似合わないわ、本当に気持ち悪い。ほら、笑わないと、哀しみも」


「いつだって僕たちは1人だったじゃないか、不安なら踊れば良いさ、不安も忘れて眠るまで」


「……そうじゃな、私たちは明日の行方なんて知らぬ。ならば晴れようこの空も、何も気にせずに笑おう。踊ろう、奏でよう、いつも私は無くしてばかりだが、おぬしたちは、クライネは見失わぬ。さぁ、私たちも手伝おうトコハナ」


「あらあら、良い笑顔。可愛い子どもが3人も、じゃあ余計に出た芽を詰んでね。貴方の言った通り、太陽も顔を出したわ」


それまで雲に隠されていた太陽が顔を出し、空気中に漂っていた龍力が輝き、流し込んだ力によって、美しい音色を奏で、小さな人形に姿を変え、音に合わせて踊り始める。

私の踊りに合わせて移り変わる音色を聞いて、畑の植物がどんどん成長し、詰む予定の芽だけが立派な大きさになる。


「あの太陽が顔を出す頃には、あの子も帰ってくるであろう。今度こそは皆で幸せになろう、1つずつしかない命を慶び。この約束の星でな」


「良い顔してるわよアイネ殿、芽を詰むんじゃなくて実にする。今の貴方の決意が表れている様ね」


「舞ならばおぬしに教えてもらったからな、これからは豊穣の神でも良いかもしれぬぞ。神の首領などやってられぬわ、私は人間とも仲良うしたい、龍人であるが憎しみ合いたくはない。ならばどうすれば良いトコハナ」


「諦めずに憂鬱にならずにいけば良いでしょ? 貴方が憂鬱になれば、周りまでそうなってしまうから、貴方は笑顔が1番綺麗なのよ」


「うむ、時には踊ることも大切かも知れぬな。ミョルニルが歌い、パラシュと踊る。ミョルニルは踊れぬからな、これで憂鬱には負けぬな」


「私だって踊れない事ないわ、ただちょっと苦手なだけで、取り敢えず死ね」


連続で攻撃を繰り出すミョルニルの攻撃を踊りながら受け流し、突き出される拳を止める。

その拳を掴んでトコハナに投げると、衝撃を完全に殺して受け止める。


「やはりおぬしは戦闘の足運びが下手じゃな、当たれば敵が消滅する、それに頼りすぎた結果じゃ」


「……それに関しては返す言葉も無いわ、確かに私は必ず当たる武器だもの。でも、それを相殺する威力や技量がこの世界にある。なら威力を上げれば良いだけでしょ」


「簡単に言うが、それは途方も無い時を使うことを前提にしておる」


「あ、御館様なら可能ですよ。戦神の御加護がありますから」


「ほーら見たことかクソドラゴン、私は最早敵無しなのよ」


「こやつを甘やかすでないトコハナ、慢心は死を手繰り寄せるぞ。それは失ってから気付くものだ」

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