君の心が動くまで②
足場の悪い荒野で瞼を閉じて来るべき敵を待っていると、案の定このメルテ平原を通る人類連合の一部が前方に現れる。
騎士が掲げる軍旗を確認すると、パレス王国が象徴とする、双翼の紋章がはっきりと見える。
その列の中心にクライネを確認して、そろそろ始まるであろう奇襲に備えて、飛龍に姿を変えて西の方向に飛ぶ。
脇にある森の入口の木の上で、5人の飛龍がパレス王国軍を見ていた。
「良いかお前ら、人類種を1人でも多く殺せ。刺し違えてでも最後まで誇りを持て」
「隊長、俺たちでも役に立つ日が来たんですね。今まで落ち零れの俺たちをここまで連れて来てくれたのは隊長です、必ず1人でも多く殺します」
「待たぬか、王都から帰還命令だ。エルデグラートが直ちに帰還し、王都の守りを固めよとの事だ」
決起をしている飛龍の小隊の隣に降り立つと、同じドラゴンだからか、好戦的な目で見られる事は無い。
だが警戒心は必ず持ち合わせていて、全員の手が腰の獲物に添えられている。
「所属と龍種を言え、人類連合の仲間か」
「龍人軍総大将、アイネ・トールだ。疑わしいならばエルデグラートに問に戻ってみると良い。人類連合に見つからぬ様にな」
「一旦戻るぞ、命令違反は重罪だ」
「ここは私に任せておけば良い、おぬしらは王都を守るのが最優先だ」
森の中を飛行して見つからない様に引いた飛龍小隊を見送り、少し用があるクライネの元にゆっくりと飛ぶ。
先頭にはヨルムが毒の槍を携え、ジャンヌがその少し後ろでどこかの国の旗が付いた槍を掲げる。
その先鋒の両脇には、レーヴァテインを使う千変の百鬼将ガルドナルが右翼、そして左翼に人類にしては魔法が使えている方の若い騎士。
恐らくクライネが考案したのであろうが、その隊列の意味を理解出来ない。
そしてチェリーとリュリュの存在は近くで感知出来るが、ナハトの魔力はこの辺りには無い。
だが、ここから随分離れた場所からでも存在感を放つ魔力は、ナハトが理性を失った時と一致する、存在しているだけでも不快になるものだった。
そちらにばかり気を取られていた所為で、いつの間にか奇襲を仕掛けた違う飛龍小隊が、パレス王国の列目掛けて横槍を入れる。
「しまった……抜かったな」
バハムート型になり龍力を高めると、ナハトの黒い魔力が龍鱗の魔力とぶつかり合い、龍鱗の魔力反応が次々に消える。
更にそれ程遠くない場所からは何かの聖書の魔力が生じ、クライネたちの本隊からも複数魔力が放出される。
目の前で消し飛ばされた飛龍を見させられ、黒い魔力が案外近くにあった事に気付く。
黒い魔力の位置を正確に探していると、片翼が黒く染まったナハトがどこかに飛んで行く。
そちらを追おうとしたが、半獣が人型から獣になる時に生じる魔力が届き、パラシュから帰還要請が届く。
「緊急事態なのかパラシュ」
「人手が足りないんだ、僕たちじゃとてもじゃないけど……まさか……が……た……なん……」
「パラシュ! 応えぬかパラシュ」
そこで途絶えたパラシュの声に戻ろうとするが、目の前の状況に体がどちらに行けば良いか分からない。
そうしている内にナハトの魔力が完全に黒く染まり、黒い雷光が糸のように虚空を駆けて四方八方に飛ぶ。
「ナハトを優先する、すまぬが持ち堪えてくれぬかパラシュ」
「仕方が……は、僕とミョル……みせるよ」
「すまぬな、頼んだぞ」
「……いよ……ら」
器に満たした龍力をそのまま虚空に留め、人型になって龍力を纏う。
あまり使いたくなかった手段だが、出し惜しみをしていたら勝てない相手には、惜しまずに戦わなければいけない事を知っている。
かつてあった戦争の苦い記憶を噛み潰して、飛来する黒雷を退けながら急行する。
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