龍人種の王⑤

一番力の強い眷属のひとりであるナハト目掛けてゆっくりと降りていくと、魔力が使われて激しくぶつかり合う。

三人の眷属とガルドナルと若い騎士を確認して、クライネを守る様に立っている三人の前に降りる。


「何時の時代も愚かなのは人間だな、私の眷属が世話になったようだな老いぼれ」


クライネの前に立ちはだかった二人は左手に魔力を溜め、いつでもやり合える様に臨戦態勢になる。

同時に三眷属もそれぞれの獲物に雷を纏い、やる気満々と言う顔でこちらを見る。


「トール殿か、私が幼き頃以来ですな。パレス王国元騎士長殿」


「まさかあのひょろひょろの新兵が今は騎士長とはな、本当に人間とは分からぬものだ。愚かなのは変わらぬがな」


不安そうな顔をしているクライネと目が合い、少しでも安心させられる様に精一杯笑ってみる。

その刹那若い騎士の魔力が少し変動し、様子を見る為に仕方無く目線を移す。


自分の爪で新しく作ったナイフを取り出し、全身に龍力を纏わせる。


「クライネ様、お下がり下さい。ガルドナル様、私が先陣を切ります」


「いや、エルは見ておけ。あれは格が違う」


「ミズルド、残念だがおぬしを相手にする気は無い。私はこう見えて負けず嫌いだからな、その若いのに負けっぱなしは気に食わん」


「貴方と刃を交えた事などありま……」


龍力を雷に変換して放出すると、ガルドナルが雷を切り裂いて炎を返してくる。

だが威力の弱い人間の魔法は避ける必要など無く、このまま強行突破で炎をくぐり抜け、龍力でガルドナルを吹き飛ばす。


「斬ってはおらん、クライネを守る刃ならば殺しはせん。だからそう殺気をみだりに出すな平凡な魔法使い」


剣の刀身をなぞる様に手を当てた若い騎士は、剣に炎を纏わせて粗末な突きを放つ。


「クライネ様、今すぐ軍を動かし森を出てください! 連合軍と合流し龍人種の国を落として下さい! ここは私たちが食い止めます」


「食い止めるか……掠りもせんその飾りの鉄でか? クライネは私のものだ、重圧と期待で縛り付けてくれるな」


目障りな若い騎士の剣をへし折り、倒れたところを尻尾で更に叩き付ける。

沈黙した二人を放っておいてクライネに向かって歩き、常に警戒している三人の射程に入らない場所で止まる。


「迎えに来たぞクライネ」


クライネに手を差し出すが、固く握られた拳は動く事がない。


「そうですか、ナハトさんチェリーさん。協力して頂けますか?」


クライネは腰の剣を抜いて構え、三眷属が答えの代わりに獲物を構える。

それを確認して溜息を吐くと、雷を纏ったナハトとチェリーが全力の一撃を叩き込んでくる。


まだまだ迷いと未熟が乗った刃は避けやすく、最大限に使い切れていない体を抱きしめてくるくる回る様にステップを踏む。


「少し成長したな、クライネを守る任は今のところ出来ておる様だな。ナハトは槍から剣に繋げる時に重心が少し浮いておる、チェリーの突きは相も変わらず素晴らしい。だが腰を少し捻り過ぎじゃな、二人とも目には見えん違いだが受けてみると分かるぞ」


見本を見せる為に雷で剣と槍を作り、二人の腹に突き刺す。

よろけて倒れ込む二人を受け止めて、傷を治す雷を地面から天に伸ばす。


その中に二人を押して入れ、クライネの方に向き変える。


「アイネさん」


「どうしたクライネ」


「貴方を……倒していきます。今ここで、ヨルムさんとジャンヌさん。軍を纏めて森を出てください」


全ての傷を癒して出て来た二人に加えて、瀕死の重傷だったリュリュが寝起きの様に出て来る。


「トールだ! 久し振りー!」


私を見るなり元気にぶんぶんと手を振るリュリュに手を振り返すが、リュリュは決して昔の様に駆け寄っては来ない。

この状況をよく分かっているのは、以外にもリュリュなのかもしれない。


クライネと二人きりでケリをつける為に、雷で囲んでフィールドを作る。

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