襲撃者?

「え、ええ!? ちょっ、誰! ってか、なんなの? さっきから」

「落ち着いて、カトリーヌ。彼のことなら大丈夫、僕の隠密……えーと、護衛だよ」

「ご、護衛? え、リュシアン、一体どういう……」

「説明は後で! とにかく、今はこの状況を確認しなきゃ」


 奇襲を防ぐため、草むらや木々を背にしないように注意して、僕は注意深くカトリーヌの前に立った。そして、そんな僕をかばうように、ゾラが周囲を確認しつつ身構える。

 やがて前方に、白装束が数人と、黒い法衣のようなものを纏った魔法使い風の人物が一人現れた。彼らから殺気や、すぐにも攻撃してくるような雰囲気は感じなかったが、ほかにも数人隠れている様子はあったので油断はできない。


「……一応聞くけど、カトリーヌの知り合いとかじゃないよね?」

「こんな怪しげな集団知らないわよ。でも、服装からして教会関係者かしら」

「そうだね、ごめん、どちらかというと僕のお客様かもしれない」

「なによ、知り合いなの?」

「そんな親し気な仲じゃないけどね……ただ、前回も同じようなシチュエーションだったんだよ」


 いささかうんざり気味にこたえると、カトリーヌがちょっと肩を竦めた。

 相手が教会だとわかって少しほっとした様子を見せつつ、そうはいっても状況がよろしくないのを感じ取ってくれたようだ。おもむろに腰のカバンに手を突っ込んで、彼らを油断なく見ていた。もしかしたら、巻物の一つでも掴んでいるのだろう。

 そんな僕らの警戒をよそに、前方をふさぐように陣取った白装束の男女数人は、こともあろうか一斉にその場に跪いた。


「……!?」


 当然ながら、僕はもちろんのこと全員があっけにとられた。


「お迎えに上がりました。ぜひ、我らとともにおいでくださいませ」


 初老の白装束は、恭しい態度でそう言って顔を上げた。差し出された手は、間違いなく僕に向けられている。その表情は優し気で、悪意のようなものを感じなかったが、今の状況ではいっそ気持ち悪く感じた。

 なんというか、自らの正当性を信じて疑わない、押しつけがましい好意のようなものがあったからだ。


「……な、なに?」

「お下がりください、リュシアン様」

「なによ、これ。どういうこと? リュシアン……」


 ゾラは警戒を強め、カトリーヌは何か知っているのかと、問い詰めるように僕を振り向いた。いや、ここははっきり言おう……さっぱり見当がつかない。


「これは神のご意向である。邪魔立ては許さぬ、半端物の分際で……」

「半端……?」


 初老の老人の後ろに控えていた男の言葉に、思わず鼻白むゾラに、僕は逆に驚いた。ほんのわずかとはいえ、ゾラがこうも動揺するさまを始めてみたのだ。


「やめよっ、余計なことは言うな」

「も、もうしわけございません。ですが、このように手間を取らなくとも手段はございましょう。説明は、捕まえ……いえ、お越しいただいてからでも! せっかく私めが、このように機会をお知らせしましたのに」

「くどい。其方の役目もこれにて終了だ。後は、沙汰を待つがよい」

「え……はっ、そのように」


 咎める初老の男の言葉をどういう風に捉えたのか、背後でうつ向いていた白装束は、堪えきれぬ喜色を乗せた顔を上げた。

 その顔には見覚えがあった。以前、カエデの村にやってきた大司教である。やはり、学校の教会にいた男は彼だったようだ。どうやら、今回のことで手柄を上げたと思っているようだが、初老の男の表情を見るに、そんな簡単な問題ではなさそうだ。正直なところ、果てしなくどうでもいいけれど。

 ともあれ、どうやら僕はずっと監視されていたようである。

 果たして、何が目的だろうか。

 この世界において、僕はただの学生だ。異界の人間であることも、上層部にしか知られていないし、ちょっと塔に注目されているという程度の学生である以外、なんの身分も持たない。

 僕の思考をよそに、彼らは間に立つゾラに視線を送ると、まるで当然の権利を主張するように命じた。


「どうやら其方、そのお方のお付きのようだが、その役目は今日を限りに降りてもらおう。これよりは、我らがお守りすることになる」


 さすがにこれには言葉を失った。

 彼らの態度はへりくだっているようで、その言動は先ほどからすべて自分本位で身勝手極まりなく、こちらの話を一切聞こうともしていないのである。

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