実力テスト2

「実は、僕が独自で作ったオリジナル魔法陣なら、道具を使わず発動できるようになったんだ」


 テストの順を待つ列に並びつつ、僕は、前に並ぶ仲間たちにそう話した。

 今までも、何らかの条件下でのみ使うことが出来た無詠唱、道具無し、魔法陣展開による発動。研究所でいろいろ試したり、発動実験をしていくうちに変化が起こった。

 僕が手を加え、制作し直した魔法陣(今はほとんど生活魔法のみだが)、それを使った時に巻物が燃えなかったのだ。つまり、魔力が巻物を通過せずに直接魔法陣を描いたことになる。

 これは想像だが、道具がなくても魔法が使えるのだと、僕が正しく「理解」したことが大きいのではないかと思う。ただ、まだどこかで思い込みが残っていて、瞬時に描ける魔法陣、つまり簡単な魔法陣以外は残念ながら展開していく途中で消滅してしまうのだ。

 自分で作った魔法陣は、単純な構造な上、しっかり頭に焼き付いてることも大きい。

 それともう一つ、魔法陣展開中のリスクである無防備状態に、無意識ながら恐怖を覚えているせいもあるのではないかと、研究所の人が言っていた。数秒とは言え、複雑な魔法陣を描くには時間が掛かる。僕が思っている以上に、例の発動中に大怪我をしたことがトラウマになっているのかもしれない。


「なるほどねえ……」


 答えるニーナに、僕が続ける。


「それに、こっちの大気中の魔力量にも影響あるようなんだ」

「どういうこと?」

「向こうでも、さっき言ったような試みは何度かしてたんだよ」


 危機的状況なんかでも何度か使えたし、前にこっちに来た時にも使えたから、その後に何度か試したこともあったのだ。

 でも、今回のような結果は得られなかった。


「こっちは大気中の魔力がかなり多いんだ。だから、魔力で描く魔法陣がそれに助けられてる部分があるのかなって」

「そっか……実はそれ、私も感じてた。私の場合は逆で、あっちに行って魔力の回復なんかがすごく遅くてびっくりしたのよ」


 カエデがすごく納得したように、手を叩いた。もしかしたら、魔力が退化したのではないかとちょっと不安に思っていたのかもしれない。気がかりが晴れたような顔をしている。


「ほう、なるほどな。ということは、魔法やスキルの威力も上がったりしてな」

「ま、まあ、そうかもしれないね」


 僕達の話を聞いていたダリルが、何を思ったのか舌なめずりをするような仕草をした。思わず、これは試験だからあまり大胆な事しないでね、と慌てて釘を刺しておく。こっちに来てから、結構イライラが溜まっている様子だったのでちょっと心配である。


「でも生活魔法じゃ、テストはちょっと無理じゃない?」

「いやいや、リュシアンなら体術で行けるだろ?」


 ニーナの問いに、エドガーが手を振りながら肩を竦めた。他のみんなも、うんうんと頷いている。


「そうだね、だけど魔法でいくよ。そうでないとあの子、納得しないと思うし」


 あの子、というのは当然観覧席で見ている少女のことだ。さっき、ちょっとだけデモンストレーション的なことをしたけど、ぜんぜん納得してなかったからね。ちゃんと攻撃魔法を見せないと、また絡んできそうだし。


「え、でも生活魔法じゃ……」

「ちゃんと攻撃魔法も出来るから大丈夫」

「……オリジナル魔法陣って、普通の魔法ってあったっけ?」

「忘れたの? 今季、普通の攻撃魔法の並列バージョンも研究してたでしょ。ほら、留学の話が来るまでの僕は、結構暇だったから」


 みんなが忙しい最中、僕だって暇を持て余していただけじゃない。

 通常の攻撃魔法で並列に分類されるのは、大きく括ると複合魔法の場合と、魔法に付加価値をつける場合の二つ。オリジナル魔法陣は、一枚にまとめることが前提なので複雑すぎるのは無理。そこで、初級魔法に、付加魔法を追加したものを作ったのだ。


「……そういえば、状態異常を付けた魔法の有効性を熱く語ってたわね」

「本当に作っちゃってたんだ」

「完成したのは、こっちに来てからなんだけどね」


 普通の魔法でも僕が作れば発動できるのか、という実験のために――。

 けれど、まだ完成して間がなく、ろくに発動実験もしていないことが気がかりではある。この始業式が終わって、研究所での本格始動時に披露しようとしていたからだ。


「……なので、不発になっちゃうかもしれないんだ」

「ん? 妾に遠慮する必要などないぞ。それこそ、さっきの驚きどまどったアヤツの顔だけで、十分に妾の溜飲は下がったのじゃ」


 僕が失敗すれば、その矛先はやはりベアトリーチェに向かうだろうが、それよりも彼女は今の状態を楽しんでいるように見える。

 さらに、


「リュシアンは気にせず思いっきりやればいいよ、私達も張り切っちゃうし」


 そう言ってアリスが腕まくりしている。その横で、ニーナも王女らしからぬニヤリという笑い方をしているし、エドガーやダリルも異様に張り切っている。

 うん、あれ? なんか違う方向に不安になって来た。


「次、私の番だ。行ってくるね」


 そうこうしている間に、ついにニーナの順になったのだった。

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