小道
翌朝、僕は教室棟への見学のため、早くからベアトリーチェと出かけた。ニーナとカエデ、ダリルはこちらに着いて来た。
エドガーとアリスはジャンの案内で、寮の敷地内にある小さな工房を見に行った。各種錬金加工、裁縫系の道具など、それほど特殊な加工でなければ、大体はこの簡易工房で出来るらしい。最近、エドガーは本格的に錬金関係を始めているので、興味があるようだ。アリスの方は、縫製が気になっているとのこと。
授業が始まると予約制になり、いつでも使えるというわけではないので、今のうちにいろいろ試しておきたいのだろう。
もちろん教室棟にも工房はあるが、せっかくジャンが案内してくれるので見ておくのもいいだろうし、寮生が戻って来る前に、ちょっと使わせてもらうのは良い手かもしれない。
お祖母様には、今日は教室棟の見学にいく旨知らせておいた。
ついでに、下見ということで明日、みんなを塔の見学に連れていきたいとも頼んだ。実際の手伝いは、一人か二人で随時メンバーを決めることになるけれど、機密の高くない研究室への挨拶廻りの段階なので、少しくらい大勢でも構わないだろうとのことだった。
「……そう言えば」
無意識に呟いてしまったので、ニーナが「なにか言った?」と振り向いた。
どうやら、考え事をしながら歩いていたので、みんなよりかなり遅れて歩いていたようだ。
慌てて小走りになってみんなに追い着くと、何でもないと首を振った。
昨夜、珍しくゾラが姿を見せて、ちょっと気になる報告をしたのを思い出していた。
塔から寮への帰り道、かすかではあるけれど妙な気配を感じたと。
お祖母様には、護衛や付き添いの同行を断ったけど、もしかしたら途中まで誰かを寄越していたのだろうか。それとも、近くの脇道にでも学生がいたのかもしれない。
僕が一人きりだったので、ゾラはその場を離れられず、確認に行くのを断念したそうそうだけど。
なんにせよ、少しだけ気に留めて置こう。
教室棟に到着すると、ベアトリーチェは僕のために、昨日まわった施設を足早に巡って説明してくれた。そのまま地下へと進み、話しに聞いていた実習室へと向かう。
どうやら早く研究の成果を見てもらいたいようだ。
そして、実習室――。
僕達が足を踏み入れると、途端に、ざわりと教室中の視線が集まった。
「気にしないで、昨日もそうだったから」
ニーナにそう言われたが、ちょっと……かなり居心地が悪かった。なにしろその視線は、どうみても僕に向かって集中砲火だったからである。
「……ほう、妾より注目を浴びるとは、なかなかやるのじゃ」
ベアトリーチェは、なんだか楽しそうである。
ニーナもそれに気が付いて「あら?」と、ちょっと意外そうだった。
「あっ、そうか……私達は慣れちゃったけど」
僕にサッと目配せして、ちょっと小声になりながらニーナは口を押える。
ここは、高等上位過程が使う研究室である。生徒の平均年齢は、十四、五歳くらいといったところだろう。ベアトリーチェも小柄ではあるが、僕はどう贔屓目に見ても一桁年齢にしか見えない。
ドリスタンの学園ではようやく認知されてきたが、こちらではまた「なんであんな子供が……」から、やり直しである。
「そなたのおかげで妾への注目が逸れたのじゃ」
どこか揶揄するような調子だったが、ベアトリーチェは面白そうにニコニコ笑っていた。ここへくると機嫌が悪くなるとジョンがぼやいていたけれど、今の彼女はどちらかというと機嫌がよさそうですらある。
まあ、役に立ったようでよかったよ……。
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