初?対面

 なんとかダンスを終えると、周りからは拍手の嵐に迎えられた。

 おべっかも往々にしてあるとは思うけれど、ほとんどがニーナの社交界デビューを素直に祝しているようだった。ニーナもちょっと照れくさそうではあったが、ほんのりと頬を染めて嬉しそうに微笑んでいた。

 彼女のこんな顔を見られるなら、それこそ僕も頑張った甲斐があったというものだろう。

 するとどこから現れたのか、次にニーナに手を差し伸べたのは、恭しく胸に手を置き頭を下げたバートンであった。さっきまで子供のように笑っていた彼女の表情は、すぐに大人の微笑みに変わった。いわゆる営業スマイルというやつである。バートンが気が付いたかどうかはわからないけれど。

 そしてゆっくりと曲が流れだすと各々、二人ずつペアになって会場全体に広がり皆が躍り出した。

 なるほど、二曲目からはみんな好き好きに踊るという段取りのようだ。ニーナも立場上、バートンの誘いを断るわけにはいかないのか、渋々とはいえダンスの輪に加わっている。

 僕はやれやれと、壁とお友達になっているはずのエドガーの下へと歩いて行った。けれど向かった先には、意外にもたくさんの女子によって埋め尽くされていた。

 僕の足は途中で止まって、それ以上先に進むのを拒んだが、すぐに気が付いた数人が、こちら側にも集まってきてしまった。どうやらダンスに誘って欲しいという、アピール合戦のようである。

 驚いたことに、今踊っていないフリーの少女たちのほとんどがこの辺に集合している。ふと後方を見ると、あぶれた男子たちが恨めしそうにこちらを睨んでいた。

 物珍しさもあるだろうけれど、エドガーが意外に女子受けがいいことに驚いてしまった。今日の彼が、かなり盛っているとしてもである。

 対応にしても、そこそこ適当に躱して、角が立たない程度に一人二人と踊っていた。やはり王族としてそれなりの処世術みたいなものは叩き込まれているようだった。

 僕もエドガーに勧められる形で、付き合い程度に軽く踊ってから、二人で初めに用意されていた席の方へと移動した。

 そちらで、既に踊り終えたバートンとニーナが待っていたからである。


 僕達が近づいて行くと、ニーナは嬉しそうに微笑んで、バートンも軽く会釈をして笑みを浮かべた。だが、目が僕から離れなかったのを見逃さなかった。

 あの大衆の中で微かに聞こえた舌打ちは、間違いなく彼だろう。


「こちら、キンバリー辺境伯のご子息でバートン・エヴルー・キンバリー、確か二人とも初めてよね。今年から学園に在籍しているのよ」


 もちろん僕は、前に会ってるけどね。でも、前もちょっと引っかかったんだけどこの名前って。


「……エヴルーって、もしかして」

「ああ、俺も今回父上に聞いて初めて知った。母……の、親戚筋らしいな」


 こいつの母親が――、とエドガーはこっそり付け加えた。

 モンフォール王国では、セカンドネームは母親の性を名乗ることが多い。人によっては母親とさらに祖母も、とやたらと長い名を持つ者もいる。その辺は割と曖昧で、決まりがないので気のせいかと思ったのだが、やはりそうだったようだ。

 つまり突き詰めれば、エドガーとは母方の遠い親戚ということになるのである。

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