魔族のスキル
人差し指を顎の下に当てて、事もなげに言ったのはカエデだ。
「魔法というか、アレはスキルなのかしら。なんでも魔族の技らしいんだけど」
一斉に注目を浴びて、カエデは慌てて首を振った。
「違うわよ、鬼人族にはあまり発現しない能力だからね、私は使えないわ。もともと吸血系魔族に多いと言われているし」
みんなの視線が、今度はテーブルに置いてある編み籠に集中した。そこには、いくつかの果物が置いてあり、その果物の上には黒い小さな生き物がチョコンと乗っている。もちろんペシュである。
そういえば、この子も吸血種族だね。一度、人型になってたし。
「巻物を持っているのよ。今じゃあまりポピュラーじゃない巻物で、しかもやたら高級なものだから、滅多に出回らないんだけどね」
そういってマジックバックから、ちょっと年代物の巻物を取り出した。
どうやら、実家の倉庫の奥底に眠っていた骨董品を引っ張り出してきたらしい。
「ほら、昔は魔族って各地を侵略してたじゃない? その時に開発されてたみたい」
結果的に学園にはうまく溶け込めたが、カエデもたぶん不安だったのだ。
もちろん、そんなもので姿を変えても一時的なものでしかないとわかっていても、なにかお守りになるものが欲しかったのだろう。
「……あ、でも一本しかないから試すことも出来ないわね」
やっぱりこんなんじゃだめかしら、とカエデが巻物を仕舞おうとしたので、僕は慌てて止めた。
「待って、それ見せて」
魔法陣に触れないようにテーブルに広げて数秒、すぐに丁寧に巻きなおしてカエデに返した。そして、手持ちの白紙の巻物……例の画用紙に輪ゴム仕様の陳腐なそれを取り出し、瞬く間に書き写した。
僕の場合は、筆もインクも使わないので準備は必要ない。
「嘘。この魔法陣、すごくレベルが高くて写生は難しいって」
「この巻物は、残念ながら僕しか発動できないけどね……どうやらこれは、スキルみたいだね」
数本を作ったところで、カエデにこの巻物の事を詳しく聞いた。
「基本的に自分を変化させるスキルなの。だから、他人を変化させることはできないわ」
「じゃあ、現実的にはリュシアンしか変化のスキルが使えないってことか?」
そうなるわね、と頷くカエデにエドガーとダリルはちょっと残念そうだ。何に変わるつもりだったんだろう、この二人……。
「本来の変化の術は多様性があって、人以外にも変化できたようだけど、この魔法陣は軍事目的で汎用性を重視して開発されたから、そんなに劇的な変化はできないわ。主体となる核はそのままで、体型を変えたり、角を消したり、羽根を隠すために使ったようね」
カエデの説明に、ニーナやアリスが面白いように食いついた。
「体型ってことは、子供が大人になったり? 大人が子供になったり?」
「そ、そうね、中身は変わらないけど。何にしても、本体からかけ離れた姿にはなれないわよ」
そして当然、僕が聞きたいことはただ一つだった。
「……し、身長は?」
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