豪邸訪問2
前にも通った玄関ホールを、今度は階段を登らずにまっすぐ進んだ。
二階へとぐるりと両側から登る階段の下にあたる部分に、大きな扉があった。白の装飾に縁の細かな柄には、すべて金箔が施されおり豪華な仕様で驚いた。
……いや、これ全部金無垢の金具だったらどうしよう。
そんなどうでもいいことに僕が慄いている間に、その重厚な扉は、白い手袋をつけた執事風の男性の手によって開かれた。
「広いし、とっても素敵ね。本当に、その辺の貴族の屋敷も真っ青よ」
「俺の家、幾つはいるんだこれ……」
天井の豪華なシャンデリアにニーナが感嘆の声をあげると、続いてダリルが呆然と呟いた。ダリルの家って、あのドワーフが工房に使っている小屋だよね。
それこそ、十や二十は入るよね、きっと。
エドガーは、王宮育ちなのであまり驚いた様子はないが、カエデなどはもう声もない。元は貴族だったとはいえ、彼女が生まれた頃にはすでに村で生活していたのだから無理はない。
アリスによると、ここのホールを使うのは稀なのだという。普段、パーティはほとんど王都の屋敷で開かれることが多いのだ。それでもこうしてちゃんと準備がしてあるのは、王都の貴族が急にこちらで催しを開いたりするときに貸し出したりするためらしい。
商魂たくましいというか、なんというか。
そしてその先見の明は、娘の教育にも活かされていた。
これだけの大店の娘になると、やがて貴族のパーティに出たりもする。商人の娘だからとバカにされないためにも、それこそ貴族の令嬢よりも何事も完璧に熟さなければならないだろうと。
「幼いころから、ダンスに礼儀作法、食事の作法、それこそお腹いっぱいってくらい叩き込まれたのよ。だけど、反抗期っていうのもあってね……」
ちょっと苦手そうだそうだしね、そういう堅苦しいのは。
結局、アリスは言うこと聞く代わりに学園に入って、冒険者を目指したいっていう我儘を通すのに成功したわけだから、そこはちゃっかり父親の血を引ているといえよう。もちろん、父とて娘に負けてない。そこは転んでもただは起きぬ商人らしく、家からの通いという絶対条件をつけたのだった。
「で、このホールだけど、ちゃんとパパには許可取ってるから平気よ。それにもう一つ、強力な助っ人がいるから紹介するわね」
そういって、先ほどここの扉を開いてくれた執事風の壮年の男性に、アリスが目配せを送った。
「初めまして皆さま。わたくしはこちらのお屋敷で家令を務めております。以前は、僭越ながらお嬢様の礼儀作法の教師などもしておりました」
ビシッと整った頭髪に、頭の先からつま先まで一糸乱れぬ姿勢を保ちつつ、彼は流れるように綺麗なお辞儀をした。ウチの執事も相当洗練されてると思ったけど、なんかこう……どちらかというとロランの立ち居振る舞いの方に似てる気がする。
その後名乗った名前もウォルターと、やっぱりかっこいい感じだった。
「ダンスもとても上手だから、今日はちょっとアドバイスしてもらおうと思ったの」
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