予兆2
「探しましたぞ、ニーナ姫。まさかこのような下々の者が屯する雑多な場所におられるとは。我らには、特別室があるではありませんか。どうか、今からでもそちらに……」
この食堂は一般生徒用。もちろん貴族だろうと、ここではみな平等なので、通常誰であろうと学生はここを使うことになる。例外といえば、弁当持参や、食事のとれるカフェテラスを利用する場合だ。
あと一つ、たくさんの助手を持つフラッグシップの生徒には、チームで使うことが出来る特別室のようなものが確かにある。チームの活動は変則的で、通常の授業とは異なるために開放されているもので、先ほどのカフェテラスなど、様々な購買部や、フラッグシップクラスの学生が運営する万屋、薬局など、そんなものが一塊に集まっている多目的区間の一角に、その建物はあった。
もちろん、それは貴族が使えるという趣旨の部屋ではない。
けれど、それをわざわざ訂正する気がないのか、ニーナは若干目を反らして口を開いた。
「いえ、結構よ。ところで、なにかお約束してましたかしら? とういか、なぜこんなところに?」
「いえね、お返事をまだ頂いておりませんので、こうして直接参った次第ですよ」
どこか仰々しい仕草の男は、慇懃無礼という言葉をそのままを表したように、言葉使いは丁寧なのに、なぜか突っかかってこられているような不快感を覚えずにはいられなかった。たぶん、ダリルがいたら間違いなく喧嘩になっているだろう。
「お返事が遅れたことは申し訳なかったわ。でも、事前にお断りしたはずでしたわね」
「そうでしたかな。俺の聞き間違いでは?」
ニーナはこの人知ってるみたいだけど、僕は間違いなく初対面だ。でも、なぜだろう、どこかであったような、そんな感じがするんだけど。
「それに、……わたくしには決まったパートナーがおりますの」
「……! それは一体」
きっぱりと答えたニーナに、背後の彼が息を呑むのが分かった。つい足を踏み出したのか、こっそりと斜め後ろを見上げていた僕の背中に思いっきりぶつかって来た。さすがに唐突だったので、思わず一歩よろけてニーナにぶつかってしまった。
「ごっ、ごめん、ニーナ」
「いいのよ、大丈夫だった? 背中、平気?」
移動もせず、二人のやり取りをぼんやり見ていた僕も悪いが、いくら何でも気が付かなかったってことはないよね? チラリと彼を見ると、誰だお前、と言わんばかりに睨んできた。
いや、こっちが聞きたいからね。
つか、身長差がさらについてることに気が付いて、地味にダメージを受けた。ともかく、とっさに前に手を出さなかった事を褒めてくれ。……ヤバかった。
ホントに何なんだ、この人は。
「おや? これは失礼、こんなところに人がいるとは。いちいち下を見て歩く習慣がないもので、まったく見えませんでした。ニーナ姫、こちらはどなたですかな」
「彼は……リュシアンよ。モンフォール王国、オービニュ伯爵子息です。そして私はフラッグシップクラスである彼の、助手でもあるわ」
一応紹介されたので、それに合わせて身体の向きを彼の方へ向けたが、いきなり上の方からグッと顔を近づけられて、開きかけた口を思わず噤んだ。
そんなに顔近づけなくても見えるんだけど……。
「ああ、あの大ぼら吹きの……いえ、失敬。確か、誰にも発動できないおかしな魔法陣を作っては、なにやら有名になっているという、なるほどフラッグシップクラスですか。よもや、このような子供だったとは驚きですね」
何かにつけて、失礼とか、失敬、とか断りを入れるけど、この人微塵も悪いと思ってないよね? 感じ悪いし、なんていうか物腰が柔らかい分、質が悪いというか……。
何か言えるものなら言って見ろとばかりに、僕をニヤニヤした顔で見下ろしてきた。
なんかもう相手にするのもイヤだなぁ、とか思っていると、してやったりという顔で、ますます薄い唇の口角を釣り上げた。
その、勝った、って顔やめて。
「なるほど、無視ですか。どうやら礼儀をわきまえておらぬようですな。いや、失礼! 俺が誰かもわからぬのなら、礼が取れぬのも仕方があるまい。ニーナ姫、ご紹介いただけますかな」
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