コーデリア2
「……はじめから話した方が良さそうね」
僕の驚いた様子にちょっとだけ苦笑して、ちらりとカエデの方を見てから話し始めた。
そういえば、カエデも魔族だって言ってたし、母親はダークエルフ、こちらでは魔族もエルフも珍しくはないのだ。この村に人族が多いのは港町に近いせいらしい。港町や街道沿いなど比較的賑わいがあり、開放的、また交流の盛んな土地には、人族は多いのだという。
「かつての皇帝が7人の妻を娶ったのは知っているかしら?」
お祖母様の問いに、僕は頷いた。
「その中に、当時の魔王の一人娘がいたのよ。そこで、魔王は娘を嫁に出す代わりに、初めに生まれた男の子を魔王の後継者とすることを条件にした」
まあ、一人娘じゃ仕方がないよね。
「じゃあ、今の魔王様って英雄王の息子……あ、いや違うか。それって千年前の話だっけ」
「ええ、それに長男は人族である父に似たらしく、在位は百年ほどだった。今の魔王はその孫、英雄王からすると曾孫かしら、まあ私の兄なんだけど」
ついでのようにサラッと呟いたお祖母様の言葉に、アリソンさんは皿を取り落としそうになって、わたわたと慌てて掴みなおし、カエデは大きな目を更に見開いていた。まあ、ゾラはいつも通りだけど。
僕も当然驚いたけれど、でもそれはみんなとは少し違う驚きだった。
「お、お兄さん? えっ、お祖母様の? いや、待って、千年前の英雄王の曾孫なの、そのお兄さんが? ……じゃあ、お祖母様って」
思わず禁忌を冒して、一体幾つ? と聞きそうになってしまった。
「言っておくけれど、先代魔王の父は長命の魔族で、しかも晩婚だったのよ! 私は末っ子だったしね」
慌てて口を押えた僕に、お祖母様はちょっとだけ言い訳がましく言って、落ち着きなくぬるくなったお茶に口をつけた。
というか、まあ驚くべきは魔王の妹ってことなんだけど、多分こちらの世界では、魔界は一つの国家で、魔王はその王様って意味しかないのだろう。
僕なんかは前世の記憶の影響で、世界を滅ぼすような存在というか、おどろおどろしいイメージが付いて回るのだけど。
どうやら英雄王が世界の大部分を統一した際、彼が種族間を無視して花嫁を娶ったことが影響して、当時は異種間での婚姻が盛んだったというのだ。
しばらくして彼が亡くなると、また微妙に種族同士の結びつきが強くなり、それぞれの種族単独の国が作られたりもしたのだが、森を出たエルフは皇都の近くに国を作り、自分たちが信仰するソティナルドゥ教を人々に布教したりして、帝国の基盤を盤石にする手助けをした。
もともと人族やエルフと敵対していた魔族も、英雄王に嫁いだ娘を通じて彼らと交流するようになり、人族から貿易、観光などの商いのノウハウを学び、自分たちの土地を豊かにすることにより、これまでのような他種族の土地を奪う戦いをすることが無くなったという。
そういう持ちつ持たれつの中で、特に人族、エルフ族、魔族はお互いの関係を強固にしていったという歴史があるらしい。もっとも、現在はそれほど蜜月というほどでもないとのことだが、この世界に於いて、魔族とエルフは寿命も釣り合っていることから、その婚姻もそれほど珍しくなかったのだという。
それに生まれてくる子供は、人族や獣人族とは違い、魔族やエルフの場合、どちらかの影響を強く受け継ぐらしく、あまり両方の特性を得ることはないという。唯一の例外はダークエルフだが、それは人族の血も混ざることによって起こった変則的な進化だったのだろう。
――なるほど、それでカエデとアリソンさんのように親子でも、種族的特徴がぜんぜん違うんだ。
あれ? でも、そうなると僕とカエデって……。
「たぶん、今回のそもそもの発端は、リュシアンとカエデさんが無意識に呼び合った結果なんでしょうね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます