第八章 冒険者になろう
巡る春
季節は移り変わり、春になった。
そろそろ昇級試験も終盤を迎え、来年度の進級の目処も立ってきた。
ダリルも念願の従魔を手に入れたことで、召喚魔の昇級がすでに決まっていた。さらに最近では、リュシアンたちとのグループ研究の活動などで、協調性の評価も上がった。すると周囲の見る目も変わってきたのか、無闇にぶつかることも少なくなり、教養科の教師も見直さざるを得なくなってきたようだ。
リュシアン、ニーナなどの優等生組は順調に昇級を決め、もちろんエドガーアリスも得意分野を中心にいくつもの昇級が決まっていた。昨年のダンジョン実習における成績の加味も、実のところかなりのウエイトを占める。多少の罰も受けたが、ご褒美はそれ以上にあった。
騒動での事情聴取の際、救出された複数のパーティからそれぞれ評価を受け、それを学園側も認める形になったのだろう。
いつもの春のイベントが終わると、いよいよ夏の長期休暇が目前になる。各教科の最終試験に、残りの課題、さらには追試などがあり、それぞれ来年度への準備に入っていくのだ。
「うわー、おまえその年で教養科の最年長クラスかよ。詐欺だな」
「リュシアンは、なんていうか調子がいい…違った、要領がいいのよ」
いわゆる成績表に当たる、進級通知書を全員で見せあっこしていると、エドガーとアリスがどこか納得いかないようにブツブツ文句を言っていた。
来年度の教養科のクラスは、ニーナとリュシアンがⅥで、アリスがⅤ、エドガーとダリルがⅣであった。
「努力の賜物って言ってよ」
実際、リュシアンはこの飛び級の為にかなり頑張った。
教養科は、あらゆる教養に加え、健全な精神、身体、礼儀作法、そして道徳に博愛(ボランティア含む)など、なんだかわかりにくい要素もある科目だ。担当教師の心ひとつ、みたいなところもあるし、かなり要領よく立ち回る必要があるのだ。リュシアンは他の教科よりなにより、常に教養科に重点を置いて生活してきた。
なぜか。
それは冒険者になるための足掛かりとするためだ。
初志貫徹、学園に入る前からの揺るぎない目標の一つである。
リュシアンはまだ九つ。たとえ来年度無事に教養科Ⅵを修了しても、十才だ。基本、冒険者ギルドへ登録するためには十三才以上でなければならない。
ただし、これは規則ではなく慣例である。
要するに十三才以上推奨、というヤツだ。
とはいえ、慣例となるにはやはり理由があり、過去に奴隷などの年端も行かぬ少年少女を冒険者として働かせ、結果、幼い命が失われていったことを憂慮してのことだったと聞いている。よって、滅多なことではこの慣例は覆らない。
そこで考えたのが、学園の身分証が持つ効力。
年齢の事がなければ、教養科Ⅵを卒業すると希望者のほとんどは冒険者ギルドへの登録を行う。時間が自由になるということもあったが、なにより学園がそれに見合う能力があると認めたということでもある。
しかもリュシアンは、攻撃学科であるナイフ術が来年にはⅥを越える。それら学園の身分証をもって、なんとか冒険者として登録するのが目的だった。
どちらにしても来年度を終え、さらにその後のことになるが、その頃には他のメンバーも徐々に冒険者としての活動が出来るようになっているだろう。
実際にダリルはすでに冒険者だし、エドガーやアリスも年齢的にその頃には登録もできる。彼らが教養科を修了するまでは不自由もあるが、こちらが時間を調節すれば、みんなで一緒の活動もできるに違いない。
去年経験したダンジョン実習も面白かったし、依頼を受けての素材集めとかも楽しそうだ。
まだまだ勉強したいこともたくさんあるので、自由な時間が持てるようになったら、いろいろな研究や上級生がやっているサークル活動などにも参加したい。
そんな未来予想図に思いを馳せつつ、その年の長期休暇、リュシアンは忙しさにかまけて実家への里帰りはしなかった。
エドガーは、父である国王によって帰国命令が出されたため渋々帰ったが、実家の近いニーナやダリルが早々に寮へ戻って来たので、しょっちゅう遊びに来ていたアリスを加え、ひたすら魔法陣の研究に精を出していたのである。
秋――、新学期が始まり、今年も懲りずにダンジョン実習を申し込んだ。
今年度、学生たちに提供されたのは、学園から少し離れた砂漠地帯の一番端、たった十階層ぽっちの寂れたダンジョンだった。ワープポイントもなく、フロアー自体も狭く、早々に最下層まで攻略を終えるものが続出した。リュシアンたちも順当にクリアすることができた。
それでもダンジョンはダンジョン、それなりに盛況だったし、ちゃんとイベントとしては盛り上がった。
その年は珍しく目立ったトラブルもなく、リュシアンたちは着実に単位を取り、それぞれ全員が得意分野を頑張って、やがて座学に集中できる冬を迎えた。
恒例の希望者による武術科の冬合宿を経て、やがて森の木々に積もった雪が溶ける頃になると、春の祭典へと向けて学園全体がどこかイソイソとした雰囲気に包まれていった。
そして季節は、再び花が綻ぶ春を迎えていた。
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