3階層

 慌てふためいて地図を広げたリュシアンに、全員が集まってくる。

 周りを警戒しているダリルたちも、持ち場を離れはしなかったが気になって仕方がない様子だった。


「…3階層だ」

「えっ、ほんと?3階層って、あのワープ陣のある?」


 呟くように漏らしたリュシアンの、その後を食い気味に身を乗り出してきたのはカイである。その表情には、言いしれない歓喜の笑みが浮かんでいた。


「うん、まだ確定はできないけど、ここまでの道のりは一致してる」

「じゃあ地図通りいけば、ワープ陣にたどり着けるのね」


 覗き込んできたのはニーナだ。

 襲ってくるモンスターは、ダンジョンの成長のせいか地図の情報とは違っているが、道の形状、部屋の有無などは3階層のマップと同じなのだ。


「途中に空白地帯もあるけれど、ここは一気にワープ陣まで抜けようと思うんだけど…いいかな?」


 各パーティのリーダーであるニーナ、カミラ、カイに了解を取ると、リュシアンはさっそく地図を片手に進みだした。道がわかっているなら、休憩を取るよりさっさと脱出できた方がいい。

 皆の足取りも心なしか軽くなっていた。

 途中、キラーダンゴの上位種であるブラッドキャタピーというめちゃくちゃ硬い装甲を持つモンスターが行く手を阻んだが、魔法で転がされてあっという間にどてっ腹をニーナに踏まれて撃沈していた。

 攻撃が思うように通らないスライムに、よっぽどストレスが溜まっていたのかなんだかちょっと容赦がない。

 順調に攻略を進め、ついにワープ陣がある部屋の前に着いた。

 地図では、この部屋にモンスターが入り込むことはまずない、とあるが一応は慎重に扉を押し開けた。

 部屋の内部が見えると同時に、いきなり武器を構えるような金属音がした為、前衛は咄嗟に戦闘態勢に入った。

 刹那に交錯したお互いの双眸は、次の瞬間には気の抜けたような、驚いたような瞬きに変わっていた。


「…え?あれ」

「えと、…誰?」


 ワープ陣の傍には、すでに一組のパーティがいた。

 構えた武器を下ろしながら、ちょっと狼狽えたように様子を伺っている。何しろこちらは大所帯である、相手は少し気圧されたように身を固くしていた。

 そんな中、構えを解いてニーナが一歩進み出る。


「驚かせてしまいましたね」


 にこやかに笑って、軽く会釈をした。後ろに控えているみんなもそれに合わせて武器を下ろしていく。

 相手もどこかほっとしたように、顔を見合わせてそれぞれ武器を収めた。


「こ、これは姫様…、失礼しました」


 彼らは、明らかに年長で、見た目では大人に見える背格好の青年だった。パーティの平均年齢は、おそらく十八前後だろう。

 聞けば、ここへはダンジョンの攻略ではなく、地図や、モンスター分布のなどを定期的に調査して、地図の改訂などをしていたというのだ。ダンジョンの所有者…、地方貴族だったり、管理を任されている管理局だったりが、冒険者ギルドにそういう依頼をすることがあるらしい。

 今回の場合、ダンジョンに潜れるのが学園の学生のみなので、ちょっと割のいい依頼だったようである。彼らは、卒業間近の学生兼冒険者で、未踏破ダンジョンにも挑戦したことがあるパーティであった。


「先週、ようやくダンジョンが解放されたので、さっそく調査をはじめたのですが…」


 ほとほと困り果てたという表情で、彼らはため息交じりで口を開いた。

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