臨時チーム

 2階層の空白地帯には、すでにキャンプの支度を済ませたグループが二つあった。他にもう一組いたらしいが、そのパーティは一気に3階層まで上がると言って出発したらしい。

 驚いたことに、朝一番で一気にここまで来たパーティは、ジェリーの大群や小鼠のパニックは知らないと言った。2階層で少し狩をしたパーティも、ジェリーの出現には驚いたけど、それほど異変を感じることはなかったというのだ。

 後発だったリュシアン達が、たまたま何らかの理由でパニックを起こした小鼠に出くわしてしまっただけなのだろうか?


「でも、あのジェリーの数は尋常とは思えないけど…」


 リュシアンたちと一緒に情報収集をしてたカミラが、二つのパーティから話を聞いた後、考え込むように腕を組んだ。とりあえず、今日はこれ以上の探索は無理のようだし、他の二組のようにキャンプの準備をした方がよさそうである。

 聞いたところによると、3階層のワープ地点からの出発だった上級生のパーティも何組かあったらしく、もし上で出会うことがあればもっと詳しい話も聞けるだろう。


「では、改めて」


 その段になって、カミラはかしこまってリュシアン達に向き合った。


「さっきは本当にありがとう。あのままジェリーに囲まれてたら危なかったわ。私たちは、もともとは武闘科で知り合った仲間内で結成されたチームよ。たまたま回復魔法と攻撃魔法が使える子がいたから、ダンジョンパーティとしても活動してたの」


 魔法が使えると言っても、やはり専門は物理攻撃が得意だったらしく、あれほどの大量の敵に囲まれては手も足も出なかったようだ。このダンジョンは、前評判ではそれほどレベルの高いものではない上に物理に有利だとされていたのだから、必ずしも油断が過ぎたというわけではなかった。実力でいえば、彼女たちはニーナやアリスにも引けを取らないほどの成績らしい。


「無事でよかったです。僕たちは、今日はここでキャンプをしてまだ下を目指すつもりですが、カミラさんたちは引き返すんですか?」

「……正直、ジェリーの大群がまた現れてたらと思うと、やはりそうしたほうがいいかもしれません。ただ、この階にはワープ陣がないので、引き返すにしても…」


 ああ、なるほどとリュシアンが口の中で呟いた。

 すでにエドガーたちはキャンプの準備進めており、カミラのパーティはリーダーの指示を待っている様子だった。ニーナは今度は口を出さず、リュシアンの思案気な横顔を見つめていた。


「それでは3階層のワープ陣までご一緒しましょうか」


 皆の了承を得てからになりますが、と前置いてリュシアンがカミラに提案した。横に控えていたニーナは「まあ、予想はしてた」と苦笑して、小さく肩を竦めた。


「え…、3階層…あ、そうか…でも、ご迷惑では?」


 先に進むという選択はちょっと思いつかなかったのか、カミラは始めびっくりしたものの確かにほぼ丸々2階層分を自分たちだけで引き返すよりは、強力な魔法が使えるリュシアンたちと3階層の途中にあるワープまで行く方が、まだ現実味があるかもしれないと考え直した。

 咄嗟に頷きかけて、ちょっとだけ逡巡するように、ちらりとニーナの方を見た。


「そうしたほうがいいわね」


 ニーナは、リュシアンの提案に呆気なく頷いた。この展開をはじめから想像してたのか、カミラ達にテキパキと指示を出した。


「私たちは明日の朝に出発するから、そちらでも十分に相談して…、もし同行するのなら間に合うように準備してちょうだい」

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