前兆
「ジェリー、ですか?」
「ああ、2階層辺りで何故か頻繁にエンカウントしてね」
どうやら前回2階層空白地帯までは攻略を終えていて、今回はそこを拠点に素材集めと、3階層への挑戦をしようと考えていたらしい。ところが、3階層で稀に見かけるジェリーと2階層で何度も遭遇し戦闘になったらしい。
「うちは近接と回復職は充実しているんだけど、魔法攻撃できる人材が少なくてね」
眉尻を下げた情けない顔で、少年は苦笑いして後方を振り向いた。そこには二人の魔法職らしき少女が地べたにペタリと座り込んで俯いていた。
度重なるジェリーとの戦闘で、魔法使いが息切れを起こしたというのが撤退の理由らしい。もともとこのダンジョンは、動物型が多くゴリゴリの武闘派向きと言われており、ジェリーのような魔法有効のモンスターは少数のはずだった。
彼女たちの消耗の激しさを見かねて、リュシアンはカバンから薬の瓶を取り出し、へたり込んでしまっている魔法使いの少女二人にそれぞれ手渡した。
こちらもダンジョン攻略に来ている以上、あまり大盤振る舞いは出来ないが、体力を微回復して魔力も徐々に回復するリュシアンオリジナルのこの薬は、試作品も含めてたくさんあるのでそれほど問題ない。
「ところで、君たちは五人パーティかい?」
魔法使いの少女たちに続いて、リーダーの少年もお礼を言って、少し気がかりそうに聞いてきた。リュシアン達が頷くと、ちょっと心配そうな顔になって忠告してきた。
「君たちが強いのは知っているけど…」
学園の有名人の姫様含め、リュシアンやエドガー、アリスもかなり成績上位者として知られていた。そして、ある意味でダリルもいろいろと有名であった。
「なぜか魔獣がやたら活性化していて、襲ってくる数も多い。そして、分布も変わっていて地図があまり役に立たなくなっている…」
薬の助けもあり、二人の少女が徐々に回復してくると、彼らのパーティがそろそろ出発の用意を始めていた。
「十分気を付けて…、くれぐれも無理はするなよ」
別れ際、少年は年長者らしく下級生のリュシアン達に注意を促した。
「情報ありがとうございました、気を付けます」
「こちらこそ、薬をありがとう。頑張って」
引き上げるパーティを見送って、リュシアン達は少しだけ作戦会議をした。
円陣に座り込んで、先ほどの情報を整理した。とりあえず、引き上げてきたのは今のところ一組だけ。今日出発したグループを含め、それより前に潜っているパーティもまだ奥にいるはずだ。
どうやらダンジョンに少し変化はあるようだが、それほど深刻ではないということだろうか?たまたまジェリーに対する準備が、不十分だったということなのかもしれない。
結局、無理はしないけれど、行けるところまでは行こうということになった。準備はこれでもかというほどしてきたのだ。
無茶をするつもりはないが、ダンジョンに挑戦しにきたのだから、多少の危険は覚悟の上である。
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