戦利品

「さっき、町に行ったって言ったでしょ。あれ、実はちょっと冒険者ギルドに行ってたのよ」

「へぇ?そうなんだ」


 ようやくお腹いっぱい食べたペシュは、ニーナの持つ桃から再びリュシアンの方へと飛んできた。手拭いで受け止めると、ついでに果汁だらけの身体を丁寧に拭いてやった。すると、そのままぴょんと肩に飛び移り、リュシアンの首元、ちょうど肩まで掛かる髪に隠れるようにして身を丸めた。どうやら、ペシュの定位置はそこと決めたようである。

 リュシアンは、ニーナの話を促すように「それで?」と呑気にクッキーをつまんでいた。


「それで…ね、ほら、例のダンジョンの…、戦利品をね、ギルドに…」


 ゴトリと、おもむろにテーブルに乗せたのは、リュシアンの腕ほどはありそうなツノだった。ニーナの小さなポーチから、手品のようににょっきり出てきた。


「…んっ!?そっ、ごほっ、ぐ」


 思わず喉を詰まらせたリュシアンは、待ち構えていたようなエドガーが差し出したお茶を掴んで、一気に飲み干した。三人とも、リュシアンの反応はある程度想像できていた様子だった。

 エドガーは「やれやれ」という顔をしているし、ニーナとアリスは叱られる前の子供のように上目遣いでリュシアンを見ている。

 なるほど、エドガーは最後尾だったから知ってるってわけね。


「…戦利品って、あの、時の?」


 リュシアンは手拭いで口元を拭いて、呆れたようにため息をついた。続けて口を開こうとしたリュシアンに、アリスが勢い込んで割り込んだ。


「私がっ…、姫様に頼んだのよ。だって、お宝がゴロゴロしてたんですもの」


 つい、商人の血が…

 と、最後の方はもしょもしょ口の中で呟いていた。


「ううん、私だって了解したんだから一緒よ。それにアリスが言わなくたって…」


 しゅんっとアリスが俯いたところで、ニーナがそれを庇うように慌てて言葉を重ねる。リュシアンが何を言う隙も無く、やがて二人は競うように身を乗り出して、あの時の状況を説明した。


「ま、待って、待って!落ち着いて」


 リュシアンは、だんだん支離滅裂になってきた説明に待ったをかけた。


「どっちが悪いとかはいいよ、別に僕は怒ってないし」

「…怒ってないの?」


 というか、むしろなんで怒っていると思ったの?リュシアンが不思議そうに首をかしげると、三人は顔を見合わせた。


「だって、リュシアンが戦っているのに、後ろで戦利品を拾ってたのよ?」

「…うん?」


 確かに隊列を乱されたり、戦闘の邪魔になるようなら困るけど…

 ある意味、ドロップ品は正当な報酬なんだし構わないのでは?

 まあ、あのドサクサにそんなことしてたなんてビックリしたけど。


 どうやらリュシアン一人に戦わせて、自分たちが呑気にお宝を拾っていたことに、ちょっと罪悪感があったらしい。なるほど、それで申し訳なさそうだったのか。

 戦闘の件なら、手を出すなと頼んだのは、他でもないこっちな訳だし、ぜんぜん気にすることないのに。


「それで?なに、換金でもしたの」


 魔獣のツノっぽいそれの横に、他のお宝が入ったたっぷり入ったポーチ型のフリーバッグを置いて、ニーナは小さく首を振った。


「それが…」

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