未知の領域

「……要するに、上位のマッピングスキルならいいんだね」


 単純に、描いたマッピングのレベルが足りなかったということだ。今ここが、とんでもない場所かもしれないということは、リュシアンは触れなかった。なぜなら、マッピングが成功すれば嫌でもわかることだから。

 今度は、初めから巻物を使わずに魔法陣を展開した。

 スキル系の魔法陣は属性という概念がなく、陣がそれほど大きくないのが特徴だ。それでも、なぜかスキルの呪文の解読は難しいとされており、魔法陣の多くは研究すらされていない。

 そんな中、鑑定やマッピングは、不可欠なスキルのため多くの労力をかけて解明され、こうして魔法陣が多数残されているのだ。

 これらは不正を防ぐため、領地を拡大するために必要であり、皮肉なことだが、あらゆる疑心暗鬼、駆け引き、戦争、それらは時として開発や技術の母となるのである。


 リュシアンは、改めて上級程度のマッピング、三連魔法陣を試してみた。

 洞窟のような暗がりの中で、魔法陣が眩く光る。そのおかげで奇しくも少しだけ周りの様子が分かった。この場所はかなりの広さがあり、その角に当たる四方向にどこかへ続く道が見えた。

 いずれにしても、洞窟のような壁に囲まれた場所だというのは確かのようだ。


「ダメか……これでも、ダメって。この魔法陣は、それこそ中級くらいのダンジョンならほぼ最深部まで見えるはずなんだけど」


 誰かが息を飲んだのがわかった。なぜなら、もしリュシアンの魔法陣が本当に発動していて、それでもスキル効果を発揮しないのなら、この場所がそれ以上の場所ということになるからだ。


「こうなったら、もう面倒くさい……ちょっとみんな下がってて。この魔法陣、かなりの範囲で展開されるから」


 展開される魔法陣に触れたところで何の害もないが、万一、目の前に被ったらフラッシュを浴びたくらいのショックは受けるかもしれない。

 リュシアンは、少しばかりヤケクソになっていた。

 ちまちま段階を踏んで上げていくのは効率が悪いと、今現在知っている一番最上級のマッピングを使ってやろうと思ったのだ。巻物がいらないとなれば、大は小を兼ねるという気分だったのだろう。

 少しの間、目をつぶり集中していたようだ。

 そして、リュシアンがぱっと目を開けた瞬間。ぽつっと空中に光の点が現れ、そこからスーッと滑らかな曲線が描かれていく。それはほんの瞬きする間に、四方八方から光が伸びて呪文をなぞりながら魔法陣を結んでいった。

 ほんの数秒、それでもリュシアンにしては時間がかかった方かもしれない。なぜならその魔法陣は、僅かな隙間を開けて綺麗に七枚並んでいたのだから。


「マッピング」


 一言、リュシアンの声により、花が散るように魔法陣はあっという間に雲散霧消した。


「……あっ、来た」


 宙を見つめていたリュシアンが、用意していた紙に、自動書記のようにすらすらと地図を描いていった。

 まるで蟻の巣のような、網目状の細かい複雑な形状。そして、描き進めていくうちにリュシアンは驚いたような顔になっていく。ピタッと筆が止まり、見開いていた瞳をゆっくりと瞬いた。


「うそ……ここ、未踏破ダンジョンの、最深部だ」

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