野宿

 その日は港町に到着する予定だったが、あいにくの悪天候のせいで馬車のスピードが出せず、日が暮れてしまった。港町まで間もなくだとは思うが、なにしろ辺りはすでに真っ暗だった。

 無理に進んで、道でも見失うことになったら大変なので、リュシアン達はそれ以上進むのを断念して野宿の準備を行った。


「……明日の船に間に合うかしら?」

「ここを早くに出れば、たぶん午後のには乗れると思うけど」


 ニーナとリュシアンは二人で火をおこし、簡易の竈をこしらえた。


「エドガー、お水」

「なんだよ、自分で出せるだろ?」

「巻物もったいない」

「……ったく」


 護衛数人とテントを組み立てていたエドガーが、リュシアンの常にないぶっきらぼうな要請に、しぶしぶといった感じで竈までやってきた。


「なによ、まだ喧嘩してるの?」


 どこかギクシャクしている二人に、フリーバッグから食材を取り出したアリスが、呆れたようにため息をついた。

 

「いや、喧嘩って……」


 忙しく働く仲間たちから、まるで子供の喧嘩みたいな扱いを受けて、リュシアンは思わず毒気を抜かれた。確かに問題がどうあれ、二人が気まずくなるのはなんだか違う気もする。

 エドガーは、大きな鍋と鉄ポットになみなみと水を注ぎ、鍋の方を受け取ったリュシアンは、その中へアリスから渡された野菜の類を放り込んだ。

 とりあえずは夕食が最優先。面倒な事は先送りにして、リュシアンはせっせと料理を作った。

 下処理は、宿屋などに泊まった時にまとめてやっているので、ここでは煮る、焼くで事足りる。今日のところは、肉だしの野菜スープと、白ごはんだ。

 もちろん、飯盒で炊いたご飯はすでに用意してある。時間短縮のために炊き立てを、フリーバッグにいくつか入れてあるのだ。

 そうして、みんなで火を囲んで食事タイムとなった。


「そういえば、リュシアンって来年Ⅴクラスに上がる教科ある?」

「薬草学が上がると思ったけど、なんで?」


 ニーナの問いかけに、リュシアンがスープを匙ですくいながら顔を上げた。アリスも「私も大剣がⅤに上がるわよ」と横から口を挟む。

 がつがつとご飯をかき込んでいたエドガーは、自然と集まってくる視線にちょっと考えるように手を止めた。


「……たぶん、攻撃魔がスキップで上がると思うけど」


 それを聞いたニーナは、ぱっと花が咲くように笑って手を合わせた。


「やった、みんなで参加できそうね」


 そんなニーナの様子に、どうやらアリスはなにか勘付いたらしく、同じように手を叩いて「ああ、あれか」と嬉しそうに頷いた。


「本当だ、このメンバーなら全員可能ね。まあ、あと一人足りないけど」

「そうなのよ。リュシアンとエドガーは、二年目だから本来なら対象ではないけれど、Ⅴ以上の科目が一個以上あれば参加できるわ」


 リュシアンは、首を傾げてエドガーと顔を見合わせた。

 事情に明るくない新入生二人の様子に、上級生二人はどこか満足そうに笑って、もったいぶった口調で種明かしをした。


「特定の条件を揃えれば、来年度の自由研修でダンジョン実習が選べるのよ」

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