学校へいきたい

 次男のロドルクが、王立学校の騎士科への進学を決めた。

 エヴァリストとしては教養科を経て騎士科へ行かせたかったようだが、そこは本人の強い要望が通った形になった。もとより礼儀作法などはロランによってみっちり鍛えられており、今更感があったということもある。

 

 長男のファビオも、この夏に留学先のドリスタンから帰ってきた。

 本当はもう少し勉強したかったようだが、後継ぎとしては早く領地に戻って学ぶこともあるだろう。この先は、ロランがファビオを教えるようだ。

 ファビオは完全に魔法使いタイプだが、精神を鍛えるという点でも、自衛の為にも、ロランに師事することは悪いことではないだろう。


 そして問題はリュシアンだ。

 エヴァリストはいまだにリュシアンの進学を認めてくれない。今はまだ家庭教師で十分だというのだ。別に家庭教師に不満があるわけではない。ロランも体術やナイフ術、魔力操作などを教えてくれる。

 でもやっぱり、リュシアンは外へ出てみたかった。

 先日帰ってきたファビオに話を聞いて、ますます学園都市への留学の想いが強くなったのだ。

 それこそ、国王になにか釘でも刺されているのではないかとさえ疑った。

 なにしろ、今なお王太子は行方不明なのだ。そして失踪したのが、他でもない学園都市だ。国王にとってはまさに鬼門といえる。ふたたび息子を留学させて、同じ轍を踏もうものならそれこそ悔やんでも悔やみきれないだろう。


(もちろん僕は、王太子は無事かもしれないと知っている。ただ、あやふやな情報なのでジーンくらいにしか言ってないのだけれど……)


※※※


「リュシアン様は、そんなに留学なさりたいのですか?」

「うん」


 ある日、ナイフの扱いをロランに見てもらっていると、ふいにそんなことを尋ねてきた。

 リュシアンは、当然迷いなく頷いた。

 ロランは、少し困ったような顔をしたので「あ! ロランや家庭教師に不満を持っているわけじゃないよ」と、慌てて付け足すと、平然と光栄ですと頭を下げた。


(あれ、違うの? なんだろう)


「……エドガー殿下の進学ですが、学園都市への留学が決まりました」


 リュシアンは、ロランの報告に心底驚いた。ちゃんと先日の父の提言を王様が受け入れたようだ。あんなに渋っていたのに、なかなか肝が据わってるではないかと少し見直したのだ。


「その代わりに、リュシアン様を王都へ寄越せとエヴァリスト様をつついているようにございます」


(気のせいだったようだ……)


 要約すると、そちらの意見を聞いたのだから、自分の意見も聞いてもらえるだろうと、こういうわけだ。リュシアンに言わせれば、そもそもエドガーの事を交換条件に持ってくるのおかしい、出来れば巻き込んで欲しくないというのが本音だろう。

 エドガーを外へ出して、首尾よくイザベラを退けることが出来た暁には、リュシアンを懐へしまえるとでも考えているのかもしれない。


 いっそ王太子が無事かもしれないと暴露しようとも考えたが、先日ジーンに話した時点で、国王には筒抜けになっていると考えたほうがいいだろう。ジーンが漏らしたわけではなく、リュシアンにはすでに隠密がつけられているのだから。

 そうだとすると、エルマン王子が無事かもしれない、ではたぶん不十分なのだろう。

 

 どちらにしてもリュシアンには王都へ行く気はこれっっぽっちもなかった。

 イザベラの件は急がない方がいいし、当面は、リュシアンが学校なりで外へ出てしまえば、手が届かなくなるだろう。自由に使える手駒が、よその国にまであるとは思えなかったからだ。

 何よりエドガーと一緒にいる時に何が起きれば、彼が巻き込まれる可能性さえある。そう考えると、エドガーと一緒にいるのは案外いい手かもしれない。


 人質を取るようで申し訳ないけど、元はといえばエドガーの母がしでかす面倒ごとなんだし、たまにはこっちが先手を取ってもいいはずだと開き直ったのだ。

 

(これじゃ、僕の方が悪者みたいだけどね……)

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