短編07 悠鳥とアレース
※短編は本編を読んでから読むことをお勧めします。
ネタバレや、次の話へ関係ある内容のものもあります。
アレースはウェイバーによく言われていた。
「お前は、悠鳥のことが好きなんだろう?」
その言葉にアレースは「お前は、何を言っているんだ?」と返した。アレース本人が、悠鳥を好きだということに気がついていなかったのだ。たしかに初めて見た『不死鳥』は綺麗だと思った。だが、綺麗と思っただけで好きだとは思ってもいなかったはずなのだ。
だから、仕方のない返答だった。
悠鳥に恋をしていると気がついたのは、スカジのことがあって暫くしてから。落ち着いて、仕事も忙しさから解放された時だった。空を飛ぶ悠鳥を見るたびに嬉しくなり、声をかけたり、幸せな気持ちになったりしたのだ。もしかすると、スカジのことがなければずっと悠鳥のことが好きだと気がつくことはなかったかもしれない。
一緒に話していて、笑う悠鳥を見て一緒にいたいと思うようになった。それから、幸せにしたいと思うようになったのだ。
それが恋なんだと気がついたのは、幸せにしたいと思った時だ。だが、この気持ちを伝えることはできない。悠鳥には迷惑をかけたくはない。
それに、悠鳥は一応エリスの使い魔なのだ。この気持ちを伝えてしまえば、エリスから悠鳥をとることになってしまう。それだけはできなかった。自分の幸せより、エリスの幸せと安全を優先するアレースはそんなことをするくらいなら気持ちを伝えないと決めたのだ。
しかし、白龍が誘拐されて思いは変わってしまった。もしかしたら、気がついた時には悠鳥も姿を消しているのではないかと。
それは、怖かった。自分の知らない場所で悠鳥が消えてしまうなんて、嫌だった。だから、悠鳥がエリス達と一緒にウェスイフール王国に行かずに、ずっと自分の側にいる時に口にしてしまったのだ。
「俺のそばにいないか?」
と。だが、それは意図せず口に出してしまったのだ。自分の耳にその言葉が届いた時、アレースが声に出していたことに気がついた。
「い、いや。なんでもないからな!」
顔を赤らめてそう言うアレースに、悠鳥は何でもない顔をして口を開いた。
「妾は、アレースと一緒にいたいと思っておるが?」
「え!? それって……。け、結婚してくれるのか!?」
結婚してくれるのかと言ってから、悠鳥は一緒にはいてくれるが結婚のことは考えていないかもしれないとアレースは思ったが、取り消すことはなかった。
「……ふふふ。生きていて、人間と同じ場所で暮らしていてこんな気持ちが芽生えるとは思わなかった。妾は、アレースにずっと笑っていてほしい。付き合ってすらおらんが……結婚してもいい」
その言葉にアレースは声も無く驚いた。思わず涙を流してしまうほどに。まさか、結婚してもいいと言ってもらえるとは思ってもいなかった。
白龍を助けに行っているエリスたちが大変な時に、自分は何をしているのかと思わないでもないアレースだったが、後悔したくはなかったのだ。
ウェイバーが言っていた通り、自分は悠鳥が好きだったのだ。そのことをウェイバーに言ったら、喜んでくれるだろう。それと同時に笑いながらからかってくることは目に見えている。ずっとウェイバーが言っていたのだから、言った通りだっただろうと言うに違いないのだ。
「結婚式はどうするのじゃ?」
「……文章で報告かな。今は忙しくはないけど、これから忙しくなるだろうしな」
本当は結婚式をするのがいいのだろう。しかし、アレースはしないことを選んだ。そのことに、悠鳥は何も言わない。彼女は結婚式をしようが、しなかろうがどちらでもよかったのだ。
ただ、もしもするのであれば準備をしなくてはいけない。だから、どうするのかと問いかけたのだ。だが、文章で報告すると聞いて小さく頷いた。
もしかすると、国民の中にはアレースと悠鳥の結婚を反対する者がいるかもしれない。悠鳥はそう思ったが、アレースはそう思わなかった。
この国の旗に描かれているのは『不死鳥』だ。ヴェルリオ王国では『不死鳥』は守り神だ。反対するどころか、賛成されるだろう。守り神がこの国の国王と結婚するのだから。
それに、昔。この国の国王は人よりの獣人と結婚したことがある。エリスやアレースにはその血が引き継がれていないほど前ではあるが、人間以外と結婚した歴史があるためアレースは大丈夫だろうと思っていた。
もしかするとエリスには怒られるかもしれないが、お互いが納得しているのだからそれでもいいとアレースは思っていた。
ただ、結婚報告はいつにしようかと白龍の無事を祈りながら考えていたのだった。
短編07 悠鳥とアレース 終
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かなり短くなってしまいました。
悠鳥もアレースが好きだったので、あっさりと結婚です。
そして、国民には祝福されます。
子供の名前は決まっているが、カタカナにするか、漢字にするか……。
人間や獣人、鳥人以外の魔物や魔物に近い存在は漢字なんですよね。
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