世界を飲み込む獣①

「私はどんな手を使ってでも、王都パレスを取り返します。恐らく皆さんは、良き時代の騎士とは呼ばれません、先に謝っておきます」


「我々は構いません、王の為ならばどの様な汚名も問題では無いのです。ですが、我々には兵も武器もありません。如何にして取り戻すおつもりですか」


興味深そうに向けられる視線を受けながら、私は考え付いた奇策を、全員によく聞こえるように発表する。


「デルタイル帝国の手を借ります」


予想通り驚きを顕にした全員の反応を見て、更に詳細を伝える為にナハトとターニャに視線を送る。

それを見て会釈した2人は私の隣にあるボードの両脇に立ち、ナハトが広げた紙にターニャが棒を使って説明を始める。


「デルタイル帝国は遠征の失敗で諸国の不安が多くあります。ですが、尚も大きな力を持ち続ける為、どの国も抵抗出来ずに居ます。この小国を密かに纏め上げ、帝国に従うフリをします。帝国は1つでも味方に付いてくれる小国が欲しい筈です」


「ですが、密かに纏め上げるなど不可能です、それに我々の様に特に力の無い国に纏められるなど、彼らのプライドが許しません」


「えぇ、ですからパレス王国ではなく、デルタイル帝国の名を使うのです」


「理解したクライネ王、ではラルクフォーレ領の者に伝えよう。つまり帝国の傘下に入って小国を下らせ、その時になったら一斉に帝国を攻撃しろと言う事だな。なかなか面白いじゃないか、馬鹿げた賭けだがな」


「以上解散です。これに勝る策があるならば、砦を出る前に申し出て下さい」


椅子を立って唖然とする貴族たちの隣を通り、ドアの取っ手に手を掛けると、軍師さんが私の隣に立つ。


「ここに居る誰かをミルドレットの懐に潜らせよう、内情を知るのは重要だ」


「私が行こうかクライネ王」


「アイラスさんは私たちの方です、あと猫被って下さい。前みたいにしないと、きっと皆驚きますよ」


「そうだな、軍人としてではなく、1人の当主として行かなければいけませんからね。こんな感じでしょうか」


親指を立てて完璧のサインを出すと慎ましやかにお辞儀をして、ドアの向こうに消えていく。

あまりの変貌ぶりにターニャがきょとんとしているのを見ると、今まで本性を出した事が無かったのだろうかと、後で聞いてみる事にする。


側近の3人を伴って砦の外に出ると、何かに肩を叩かれた様に振り向いたヨルムが、私の方を向いてどたどたと駆け寄ってくる。

相当重たいものを付けているからか、凄く走りづらそうにして、同時に謎の苛立ちと敗北感が本能から生成される。


「クライネちゃん久し振り〜、ずっと会えなかったから寂しかったのよ〜」


目の前で両手を広げたヨルムに捕まる前にナハトと場所を入れ替わって、人を駄目にするであろうサンドイッチを回避する。

捕まったナハトは無抵抗のまま立ち尽くし、ヨルムが私じゃない事を確認すると、ナハトを抱きしめたままこちらに腕を伸ばす。


次はチェリーを生け贄に回避したと思ったが、チェリーに腕を掴まれて一緒に巻き込まれる。


「私を守って下さいよチェリーさん」


「逃がす訳ないじゃないか、逝く時は皆一緒にだろ?」


「皆大好きよ〜、ジャンヌちゃんもほらほら〜。リュリュちゃんも来て来て〜」


「楽しそうだね!」


顔をぱっと明るくさせたリュリュが飛び込んで来て、遠慮気味に遠くから見ていたジャンヌに手を伸ばすと恐る恐る手を伸ばしてくる。

その手をしっかりと掴んで引き寄せると、勢い余って全員がヨルムの上に転ぶ。


「わ、私のせいじゃないですよ。そんなに重くないと思いますし」


「そんな事は良いんですよ、暫くの休息です。楽しみましょう、もう少しだけ」


「眠くなってきたな、おやすみナハト……グーテナハト」


「こんな所で寝ないで下さいチェリー、あと言い直さなくて良いです。あぁもぅ、リュリュは知らない間に寝てるし。でもクライネ様が近くて……」


「確かに眠く……寝ますね」


突然顔を出した眠気に手を引かれて微睡みに沈み、水の中の様な静寂と温かさに包まれて意識が奪い取られる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る