黒雷姫④
ナイフを抜いて姿勢を低くして待ち構えていると、驚いた顔でナハトが突っ立っていた。
「すみません驚かせてしまって、お話があって来ました」
「大丈夫ですよ、私も少し驚き過ぎました」
ふらふらと歩くナハトを補助して隣に腰掛けさせ、座るのも辛そうに震えるナハトの肩に手を回して、伸ばしていた足の太腿に頭を置かせる。
驚く程抵抗する力が弱かった為、いつもならこんな事は断られるが、そんな力も残ってない程疲弊し切っているというのが分かる。
「駄目ですクライネ様、私なんかにこんな事を……」
「私がしたいんです、今まであの2人の姉みたいな存在なんだったんですから、時々こうして誰かに甘えるってのも大切です」
闇の中からナハトが現れてから、先程まで纏っていた近寄り難い雰囲気は無く、安心した子どもの様に口元が緩んでいる。
ナハトの頭を優しく撫でながら暫く黙っていると、ナハトが口を開く。
「黙っていて申し訳ありませんでした、そして私が至らぬせいで、沢山の人を傷付けてしまいました」
「確かに秘密にしてた事は少しムッと思いましたが、誰にでも秘密にしたい事はありますよ。アイネさんは何も教えてくれなかったですし、それに比べたら全然良い方ですよ」
ふふふっ、と笑ったナハトは、撫でていた私の手を掴み、自分の頬に持ってく。
「私はティターンの末裔なんです、でも体は大きくなくて、力だけをそのまま受け継いだんです。ゼウスが父であるクロノスに謀反を起こし、私たちを狩る動きが活発になったんです。それを助けてくれたのがアイネさんでした」
「ティターンですか、ゼウスにクロノス? すみません、無知過ぎて分からないです」
「ティターンと言うのは、原初の神から生まれた神です。私はゼウスの子で、エウテルペと一緒に逃げて来たんです。全能と呼ばれるゼウスですが、正直言って最低のゴミ野郎です。地上に降りて直ぐにエウテルペとはぐれてしまって、私は怒ったゼウスに神の力を取られちゃったんです。神は加護が無いまま穢れた世界に降りると、私の様に神力が黒く染まってしまうんです」
「でもナハトさんのは魔力ですよ、神力と魔力は同じなんですか?」
「いえ、神力は少量でも大きな事が出来ます。龍力はそれより少し力が要りますが、それ程量は必要になりません。ですが人類種の使う魔力は多くの量が必要です、ですが私は神力の放出が制限されている為、魔力に変換して大きな魔法を放出しているんです」
「そうなんですか、ならナハトさんは神様なんですね」
「一応そうなんですけど、隠し子なので表には出ていません。ゼウスは色んな人に手を出してたので、母が誰なのか分からないです」
「なら、私たちの国が、私が貴女の親です。パレス王国の全国民の親なので、差別も身分もきっと無くしてみせます」
自分の国を始めとして、人類種が愚かな種族などと呼ばれない様に、そして願いを叶える為に。
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