聖断②

突然の招集で城門に集結した騎士たちは、当然不安を醸し出しているが、今更文句を言ったところで状況は変わらない。

それならばいっそ、この国は小国のまま途絶えると言うのも一つの道だ。


だが多くの命を守る為に時には踏み外さなければならない、何よりも国を、民を愛しているなら迷わずに決めなければならなかった。

だがそうさせてくれなかったのは、たったひとりのドラゴンの存在だった。


優しく過保護な姿だが、怒るととても怖いその人は、今でも胸の中に居座り続けている。

今はそれよりも大きな存在は無く、何をしてでも取り返したかった。


だがいつまでも虚像に甘えていては、いずれ自分も愚かな種族に分類され、幻滅されてしまうかもしれないと言う恐怖で、この戦争に足を踏み入れてしまった。

迷いと不安を切り裂くように剣を抜き、天に高く掲げる。


「行きましょう、この国の光ある未来の為に。光あるところに、我が王国あり!」


「全軍出撃!」


ガルドナル将軍の声を合図に馬を走らせ、既に二十万にまで膨れ上がった帝国軍の本隊に合流する。

事前にエルから聞いた話によると、数の多い人類連合に対して、龍人種は約三万しか居ないらしい。


元々種族の数が少ないのもあるが、古の戦で多くが神の前で散っていったらしい。

一時的に力が弱まった龍人種は、人類種の奴隷とされて売られたり、一部では未だに競りが続けられたりしている。


そんな事から龍人種も人類種を良く思っておらず、度々各地で小規模の争いが起こっていた。

それでもこの日まで爆発しなかったのは、龍人による忍耐が大きかったのだろう。


ターニャに教えて貰った龍人との関係を頭の中で整理していると、遠い遠い先頭から徐々に長い列が停止していく。

それに従って左手を顔の横に上げて停止の合図を送ると、笛が吹かれてパレス騎士団が足を止める。


「本日はもう日が暮れる刻である為、ここに駐屯する様ですな。我々も準備致しましょう」


日の傾きを見たガルドナル将軍が、前方の考えを察知して馬から下りる。

後方の荷車を引いていた隊が準備を開始するのを見ていると、ジャンヌが隣に馬を寄せる。


クライネは暫く無言のまま先頭を見ていたジャンヌを見ていると、一瞬俯いてクライネの顔を見る。


「私たちは少し離れた所にある森にしましょう、神がそちらに行けと啓示を与えてくれました」


「ですが、ここから離れるのは……」


「私もその方が良いと思うな〜、何だか分からないけど胸騒ぎがするのよね〜」


その後から馬を引いて現れたヨルムが、珍しく迎撃姿勢ではない言葉を言いながら、飛び去る鳥の大群を指差す。


「そうですか、ではジャンヌさんが聞いた神のお告げと、ヨルムさんの胸騒ぎを信じましょう」


「恐れ入ります陛下」


「ありがとねクライネちゃん」


「では後方に伝えます、お手伝いお願い出来ますか?」


はっ、と短く返事をした二人は馬に乗って後方に馬を駆り、王命をを各隊に伝えに行く。

クライネは改めてこの地を見回してみると、空には先程の群れとは別の鳥の群れが飛び去っていき、まるで何かから逃げる様に動物が移動していく。

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