ACT98 更なる高みへ

「みんな~ッ!! こ~んに~ちは~!!!」


 うおぉぉぉぉおおおっ――

 地鳴りを伴う歓声。


「行っくよ~!!」

「「おぉぉぉおおお――ハイ・ハイ・ハイ・ハイ・ハイィィッ!!」」


 爆音と呼ぶべき音量で流れるデビュー曲に合わせて躍って歌う。

 最早私たちの歌声なんて観客には届いていない。

 野太い歓声が私たちの歌声を掻き消していた。


 ライブ終了後。

 終始観客の熱量に押され気味だった私たちは、疲労困憊と言った様子で楽屋に入った。


「ライブハウスは嫌だね。狭いから躍りにくいし、何と言っても暑い。って言うか、なんでライブハウスなんかで歌わなきゃいけないわけ?」

「だよねー。私らドームツアーも決まってる訳だし、いまさらライブハウスで歌ってもねぇ?」

「まあ、仕方ないんじゃない? 私らまだ新人みたいなもんだし」


 メンバーがファンには見せられない様な態度と悪態をつく。

 アイドルなんてステージを降りればただの人。

 夢を与える仕事をしている反面、アイドルの実情なんてどこでもこんなものだ。

 夢も希望もありゃしない。


「それじゃ」

「お疲れ」


 私に返答してくれるのはHIKARUくらいだ。

 他のメンバーは基本的に無視――完全に空気扱いだ。

 一応センターなんだけどな……

 まあ、それが原因で疎まれているようなものなのだが……空気扱いも今に始まったことではないから気にしない。


「最近調子のってる」とか、「媚び売りやがって」とかいろいろ陰口をたたかれているのも知っている。というより、わざと聞こえるように話すのだから嫌でも耳に入る。

 アイドルは陰湿な娘が多い(あくまで持論)。

 百年の恋も一瞬で冷めてしまうレベルで現実はヒドイ(これまた持論)。

 他者を蹴落とすことしか頭にないメンバー。

 いかにして相手を出し抜くか。その事だけに注力している。すでに売れっ子と言って差し支えないラビットガールズのメンバーはさらなる高みへという意識は低い。ラビットガールズで一番を獲ることイコール現役№1アイドルと言っても過言ではないのだから、さらなる高みを目指す意味などないのかもしれない。

 しかし、私は違う。さらなる高みを目指す――目指さなければならない。

 さらに上のステージに行くことで得られるものがある。それはお金だ。

 もっともっと稼ぎたい。


 そんな折、マネージャーからバラエティー番組出演のオファーが来たことを聴いた。

 受けるのか受けないのか尋ねられた私は取り敢えず「保留」と答えた。

 汚れ仕事はごめんだ。

 そのバラエティー番組にレギュラー出演している女優二人がいい例だ。

 完全にマイナスの仕事だ。畑違いのステージでおろおろと周囲を見回し、醜態をさらしている。

 当然の結果と言えるだろう。

 しかしラビットガールズのセンターという地位だけではお金は稼げない。

 新たな称号を得ることで芸能界での地位を確立させる。

 楽して稼ぐ。そうすれば家族との時間も今よりはとれるように……ならないよね……

 芸能界は消費社会。人気が出ればその分多くの仕事が回ってくる。

 そうすれば休みは取れない。だがそれは致し方ないことだ。

 そんな世界に望んで居るのだから。

 まずは研究しないといけないなぁ……

 マネージャーに頼んで『お笑い革命~至高の笑い発信基地局~』の過去の放送分を取り寄せてもらおう。

 あとは社長に頼んで事務所の力で何とかレギュラーにねじ込んでもらおう。

 そして私は新たな階段を上る。


 そして私は三島加奈ではなくMIKAとしての時間が長くなってゆく……――

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