幕間Ⅱ MIKA
ACT92 三島加奈
私の名前は三島加奈。どこにでもいる平凡な女子中学生だった。
強いて言えば地域で一番かわいいくらいだ。
決して言い過ぎという事はない。友達には半分冗談、半分本気で芸能人になれそうだと言われていた。
そして実際に私は芸能界へと足を踏み入れた。
全く関心がない訳ではなかったけれど、将来の選択肢として芸能人と言うのは端から頭になかった。
そんな私が芸能界の道へと進んだのは、中学2年生の時だった。
業界でも一二を争う大手レコード会社――クイーンレコードからラビットガールズのメンバーとしてメジャーデビューを果たした。
競争倍率200倍となったオーディションを勝ち抜いてのデビューであった。
何が決め手になったのか確かなことは分からない。でも、間違いなくオーディション受験者の中で、私が一番合格を渇望していた。
もしかしたら、その一点のみで私は合格を勝ち取ったのかもしれない。
話は少し遡って、私がまだ一般人だった頃。
私はダンススクールに通っていた。
特別上手だったということもなかったと思う。
それでも見た目の華やかさで、いつも私はみんなの中心にいた。
男女問わず羨望の眼差しが向けられた。時折、嫉妬深い女子たちに嫌がらせを受けることもあったけれど、私は気に留めなかった。
嫉妬されるって事は、私の方が相手よりも上にいるって事だから。
そんな理屈で私は日々優越感浸っていた。そんな態度も相まって嫌がらせはエスカレートした。けれども私は自分のスタイルを変えようとはしなかった。むしろ私の性格上、より強固な自己顕示をするに至った。
するといつの間にか取り巻きたちは私の傍を離れ、嫌がらせに加担していた。
自分にとばっちりが来ることを恐れたのだろう。だからと言って、他者を傷つける側に回ることを良しとする低俗な人間に対して同情する気にはなれなかった。反対に憐れんだ。
――残念な人たち、と。
そう思うと同時に私の中に一つの考え――想いが生まれた。
煩わしい。
そして思い至った。見せつけてやればいいのだ、と。
誰もが憧れる存在に――誰もが敵うことの無い存在に――スターになればいい。
私は決意した。
誰もが羨み、そしてただ遠巻きに眺めるだけの存在になると。
それは私が中学の入学式を控えた四月のことだった。
♢ ♢ ♢
芸能界への近道を探した私が行きついたのは都内の芸能スクールだった。
多くの芸能人を輩出した名門スクールだった。そして名門の名にふさわしい月謝。
三島家は控えめに言って貧乏だ。収入が少ないのではない。大家族故に貧乏なのだ。
長女である私を筆頭に女が四人。男が六人の計十人の子どもを母が一人で養っていた。
月に何万ものお金を捻出することなど三島家にできる筈もなかった。
それでも知ってしまった。華やかな世界があることを。
本当は華やかでも何でもない世界だったのかもしれないけれど、当時の私には目に映る全てが華やかに見えた。
貧乏なことを恨んだことはない。家族と一緒の時間は楽しかったから――でも、都会の子たちは華やかで、その理由がお金の有無だと言うのであれば、お金を欲するのは道理だった。
片田舎にはない都会の華やかさ。そんなものに憧れた一人の少女の目的はいとも容易く塗り替えられた。
お金が欲しい、と。
母は私の夢を応援してくれた。
妹は猛烈に反対した。お金がかかる、と。
それでも私は止まらなかった。
夢を叶えるため――夢なんて耳触りのいい言葉でごまかした抑圧してきた欲求に他ならない。
その欲求が家族を救うことにもなる。
数ヶ月スクールに通ううちに、私の価値観は変わっていた。
私は長女だ。三島家で一番最初に稼ぎに出る。私が三島家を支える。そのためには手段は択ばない。どんなに汚い事でもやる。
スクール内での競争にすら勝てない人間はデビューすらできない。
演技試験があった時にはライバルの台本を紛失させた。
歌唱テストの時には間違った課題曲を伝えた。
ダンステストの時には怪我するように仕向けた。もちろん死なない程度に。
その甲斐あってスクールで一二の成績を残していた。だが問題もあった。お金。金銭的な問題である。
月謝を払えなくなった私は、断りもなく母の財布から福沢諭吉を三枚抜き取った――。
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