ACT78 アイドルの本性(下)
スチール撮影が始まっているにもかかわらず、私は笑顔を上手く作れずにいた。
MIKAの衝撃発言に動揺したままカメラの前に立っていた。
まさか、あれがあの娘の本性なの!? いつもスタジオで挨拶に来てくれていた人物と同一人物とは思えなかった。
もしかしたら私の聞き間違い? もしかすると、ちょっと機嫌が悪かっただけかもしれないし。きっとそうだ。そうに違いない。そういう事にしよう。
「うーん。ちょっと結衣ちゃん表情硬いねー」
「すみません」
「いや、謝らなくてもいいんだけどね……。休憩入れますか」
スタッフが一斉に四方に散る。
飲み物だったりを素早く用意してすぐさま空気になる。プロの仕事である。
私もプロとしてスチール撮影くらい簡単にこなさなくてはならないというのに。まだまだ未熟者だと言わざるを得ない。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。ほら」
営業スマイルを浮かべてみせる。
「そうかぁ、ならええねんけど」
そう言って晩春さんはペットボトルのお茶を手に取る。
キャップを取ると一気に飲み干して、
「お手洗い行ってくるわ」席を立った。
私も、とMIKAが続くようにスタジオを出た。
2人がスタジオを離れると、
「あの女ぁ……」
「何なのよ真希」
「あの女、私の邪魔ばっかりするのよ」
ここは詳しく聞いた方がいいのだろう。
どうしたの? と真希に合わせて相槌を打つ。
「私を中心から遠ざけるようにガードしてくるのよ!」
「まさか」
真希の妄想だと思いたい。そう願ったからこそ出た言葉だった。
しかし、既に私の中に生まれた疑惑は大きく、簡単に拭い去ることは出来なかった。
「結衣。場所代わってよ」
いいよ、とは返すことが出来なかった。
やはり、心のどこかで彼女を疑っている自分がいる。
そして私は、小さな声で「ごめん……無理」と答えた。
…………
……
…
無事に? スチール撮影が終わり、各々が帰路につく。
私も高野さんと一緒にスタジオを後にする。
駐車場に行くと、真希が車の前で待っていた。
高野さんは怪訝な顔で、
「何か用かしら?」
「アナタには何も用はありませんよ。高野さん、結衣に一言忠告しておきたくて」
「忠告?」
私は首を傾げた。
「ほら、これよ」
そう言って真希はシャツをめくり上げた。
あらわになったのは、きめ細かい白い肌に色濃く残った痣だった。
「どうしたのよソレ」
私は痣から視線を外すことなく尋ねた。
咳ばらいをして、真希がシャツを正す。
「あの女にやられたのよ」
シャツの上から痣のあった場所をさすりながら答える。
「気をつけなさいよ」
呟くように言うと、それ以上言うことは無いと言わんばかりに大股で駐車場を去った。
数日後、出来上がった新ポスターの真希とMIKAの間には不自然な(半身分くらい程の)空間があった。
MIKAの肘の位置が、真希の痣の高さと同じくらいにあるのは偶然なのだろうか。
私には何も分からなかった。
ただ一つ分かっていることは、新ポスターの評判がすこぶる好いということだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます