ACT66 エゴサーチ×2

 堀川汐莉という無名の新人女優として最後までやり通すつもりでいたが、諸事情によりそうもいかなくなったので仕方なく素性を明かすことにした。

 その代償として毎日テレビや取材にと大忙し。

 私、ハリウッド女優だよ!? 扱いひどくない!?

 などと騒いでみたところで状況は変わらない。

 不器用な姉の尻拭いと想えばこの苦痛にも耐えられる。

 それに今日は一日、なぜかポッカリとスケジュールに穴が開いていた。

 その理由はマネージャーの職務怠慢にあるのだけれど……。まあ、いいか。一日のんびり過ごそう。と思っていたのだが――


「信じらんない!」

 ヒステリックな声を上げながら姉が帰ってきた。

 あれ? 今日はプレミアム試写会で夜まで帰ってこないはずではなかっただろうか。

 そんな疑問を口にしたところで今の姉は感情のままに捲し立てるだけだろう。なので熱が引くまで待つことにした。

 リビングを所狭しと練り歩き、落ち着いた頃にどうしたの? と優しく声を掛ける。

 聞いてくれと言わんばかりに身を乗り出し、姉は今日あった出来事を45分にも亘って語った。


 要約すると、「王子監督にNGシーン(恥ずかしい)を編集された挙句、上映されることになったので逃げかえってきた」と言う事らしかった。

 結衣はこの事を知らなかった様子だったと聞き、姉のマネージャーはタレント思いなのだなと感心した。

 私のマネージャーにも見習ってほしいものだ。

 もっと私を大切にしろ! おっといけない。話が脱線するところだった。


 あー!! と癇癪かんしゃくを起こした子供のように頭を抱えて地団太を踏む姉。

 血管の浮き出た手で手当たり次第にものを掴み投げていた。


 ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)、コーチ(COACH)、グッチ(GUCCI)、エルメス(HERMES)シャネル(CHANEL)・クロエ(Chloé)にフルラ(FURLA)――とブランド物のバックやら財布が壁に激突しては虚しく落ちる。

 たまに流れ弾? 流れブランド品が私の顔面を直撃した。

 ブランド物の山が幾つかできた頃、ぜぇぜぇと肩で息をしながら「片付けるの手伝って」と呟いた。

 そんなことがあった翌日――当日の夜のニュースにはプレミアム試写会の様子が報道された。民放はこぞってその様子を流した。

 それと同時にネットではトピックとして姉(&結衣)の名が挙がった。

 自室に籠った姉のああぁぁぁあああ!!――という病的なまでの奇声がドア越しに聞こえた。


 エゴサーチでもしたのだろう。一応、するなとは言っておいたのだけれど、意味はなかったようだ。

 芸能界に身を置くものとしては世間の声(反応)は気になるところだろう。

 かく言う私もエゴサーチは欠かさない。なに書かれてても気にしないけどね。

 どれどれと「堀川汐莉 シェリルマクレーン 新作映画」で検索を掛ける。

 百万件以上のヒットの中から適当に選んだ記事は私の演技力を絶賛していた。当然だとそのままスクロールしていくと……――


『でも結局試写会のせいで完全に食われたよねww』


 ……今度は私が奇声を発する番だった。

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