ACT58 姉の見栄

 よく双子には不思議なテレパシー的な何かがあって、お互いの考えが直感的に分かる。なんてことが言われたりするけど、私はそんな感覚になったことが無い。

 私には双子の妹がいるが、二卵性のため容姿が瓜二つということは無い。

 全く似ていないという訳ではないのだが、外見的なものから内面的なものまで全てにおいて妹が上である。

 これは比喩ではなく純然たる事実である。

 私の妹は本当に凄いのだ。

 絶対に口にはしないけど。調子に乗るから。

 そんな妹がすでに調子に乗っていた。

 突然、家に押しかけてきてしばらく泊めろと言い。更には、こっち(日本)の映画に出演すると言う。

 身勝手な妹だ。似なくてもいいところだけ私によく似ている。

 妹の頭を小突きながら、やはり姉妹なのだなと互いの血のつながりを感じた。



 ♢ ♢ ♢



 妹が私の家に滞在して一年余。

 私は彼女が何をしているのか知らない。でも、一つだけ言えることがある。

 妹が訪ねてきたために私の予定は滅茶苦茶だと言う事。

 なのに……なのに……。どこ行きやがったあのバカ。

 書き置き一枚残して朝っぱらから姿を消した。


『探さないでください』


 かまってちゃんかよッ!! 

 私は書き置きを丸めて壁に投げつけた。

「――ふざけんな!!」

 もし週刊誌の連中にでも撮られたらどうするんだ。

 ハリウッド女優が徘徊(迷子)とか、間違いなく記者たちにとって恰好のネタになる。どのように弁明すればいいのか。頭を抱える。


 朝はどうにも苦手だ。コーヒーでも飲んで落ち着こうと、エスプレッソマシンを稼働させる。

 このエスプレッソマシンかなりの高級品で、ほとんど使っていない。使い時が無いのだ。高級品ってあるだけで意味のあるものだから用途についてはさほど気にしたことが無いかもしれない。

 ちなみに私はコーヒーが苦手だ。それなのにエスプレッソマシンがあるのには理由がある。

 ただの見栄。それ以上でもそれ以下でもない。

 普段は仕舞い込んでいるマシンが現在稼働しているのも見栄が関係していた。


 実の妹に対しても見栄を張ってしまう。そんな姉心を理解していただきたい。

 私と同じくコーヒーの苦手な妹の前でエスプレッソを飲む。

 正直、エスプレッソもドリップもよく違いは判らない。だってどっちにしたって苦いんだもの。

 でも苦い顔一つせずに、

「この美味しさが解らないなんて可哀想ね。人生損してるわよ」

 と言ってやるの。実際に昨日言ってやった。

 昨日の私からすれば私自身も人生を損している人間のひとりのだが、そんなブーメラン、私は一切気にしない。

 16歳にもなって妹に張り合う姉。何か情けない。

 ちょっとした自己嫌悪に陥っていると、脱ぎ散らかした妹の衣服で出来た小さな山の下敷きになっているを見つけた。


 これは……。

 手にしたを、私は何度も何度も読み返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る