ACT46 この業界はブラック体質です

 先日のアドリブキス騒動から6日。

 私たち出演者を含む映画関係者は飛行機に搭乗していた。

 まさか海外で撮影することになるとは……。映画の為にスケジュールを空けていてよかった。

 現に隣の席に座る草薙さんはレギュラー出演している番組を休んできている。


「草薙さん、『朝スク』(朝からスクープの略)の方は大丈夫でしたか?」

「ええ問題ないわ」

 親しみを満面に浮かべた笑みには、余裕の色さえ見て取れた。

「どうせこうなるって思ってたから。番組の方には前以って、休む事になると思いますって頭下げておいたから」

「私は仕事入れてなくてよかったなと……いきなり海外とかちょっと普通じゃないですよね?」

 控えめにではあるが、王子監督に対する愚痴をこぼす。


 草薙さんはシートを叩きながら笑いを押し殺していた。

「だよね。私もそう思う」

 一緒になって笑った。

 そうだ! と何かを思い付いた草薙さんは、はたと手を叩き言う。

「『朝スク』出てみない?」

「えっ?」

「向こうに到着したら中継繋ぐって言うから友情出演ってことでどうかな?」

「いいんですか? あっ、じゃあ朝スクのスタッフさんもこの便に?」

「ん、乗ってないよ。前乗りしてるって。束の間のバカンスだね~、羨ましい」


 他愛の無い世間話から業界話まで会話には事欠かなかった(終始、先日のアドリブキスの愚痴を聞いてもらった。)。時間はあっという間に過ぎていった。

 何より真希と慶が前乗りしていてくれたおかげで、心地のいい空間で空の旅を満喫することが出来た。


 飛行機が着陸。久しぶりの海外だ~、とテンションの上がる私の隣で、「結衣ちゃん……元気ね……」と消え入りそうな声が呻いた。

 あ……何かごめんなさい。

「い、いいのよぉ~……私も歳かしら」

「草薙さんまだ20代ですよッ!?――」

「でも、干支一回りも違うのよ」

 うっ、そう言われると歳の差を感じてしまう。

 いやいや、確かに歳の差はあるけど28歳は充分若いですよ、草薙さん。


 そうかなぁ~と、いまいち腑に落ちないと言った顔で飛行機を下りる。

 空港から出るタイミングで『朝スク』の撮影カメラが草薙さんを取り囲む。

 うわぁ……番組って出演者に対する配慮とか無いのかな? この業界って完全なブラック体質だよね。

 それでもすぐさま笑顔を作りレポートを開始する草薙さんのプロ根性は流石である。

 尊敬の眼差しで見つめてると手招きされる。


「今日は王子監督の新作映画で共演しているお友達にもお話を聞きたいと思いま~す。新田結衣ちゃんです!!」

 パチパチと鳴らされる拍手に急かされカメラの前に出る。

「どうもー、新田結衣です。よろしくお願いしまーす!!」

 第一声で地声からTV用の声色に切り替わる私もやはりこの業界に染まっているみたい。


 …………

 ……

 …


「「以上、草薙と新田が現場からお伝えしました~」」

「お疲れ様でした」

「「お疲れ様です」」

「もう帰国されるんですか?」

「そうだよ。早く帰って来いって上がうるさいから」

 ため息交じりに搭乗ゲートに向かう『朝スク』スタッフを草薙さんと二人で見送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る