ACT38 騒動以来の登校

「……――て事があったのよ♪」

「「ふーん」」

 あれ? みんな反応が冷たくない? ふーんって、それだけ!?

 もっと他にあるでしょ。私と赤崎くんのファーストキスだよ? こういう時女子ってもっと騒ぐものじゃない?

「ねぇ、なんでそんなに関心無いのよ?」

 だってねぇ~と、みんなは顔を見合わせて言う。

「だってただの間接キスだし」

(ただの!?)

「未だに苗字で呼んでるって超ウケる」

(ウケる!?)

「って言うか二人って付き合ってたの?」

(付き合ってるよ!)

「初々しすぎて面白い――じゃなかった。応援したくなりますよね」

(面白いだと!?)

 好き勝手言ってくれる。

 言い返してやりたいのに言葉が出てこない。だって全部本当の事だから。


 みんなで私を玩具オモチャにしているだけの事。少し腹が立つけど、それを心地よく思う自分もいた。

 王子監督の気紛れなロケハン(海外)のおかげで時間ができたので、久し振りに学校へと足を運んだのだ。


 文化祭以来の登校だったから嫌でも注目を浴びた。それに正体もバレちゃってるしね。

 だから今も遠巻きに私の姿を見ようと、顔を覗かせる生徒が代わる代わるやってきている。

「流石、人気女優だね」

「でも、男子ってホント厳禁だよね。変装してる時にアタック掛けてきたのアヤトだけだったっしょ? 今は掌返したみたく群がっちゃって、イヤだよねぇ~、節操なくてさ」

「鈴音さんは見た目に反して真面目ですよね」

「何か失礼じゃない?」

 これはチャンス! と鈴音と自分の立場(いじられ役)を入れ替えようと話に混ざる。


「そうそう、ギャルなのに時々すごく真面な事言うよね」

「あっ、ユッキーにまで弄られたらあーしも終わりだね」

「ちょっと、それどういう意味!?」

「ユッキーがあーしを弄るとか100年早いし~」

 ――むむむぅ~

 地団駄を踏む。

 まだ私はこのメンバーの中では一番の下っ端のままらしい。

 対等な友人って感じで楽しいけど、いつまでもやられっぱなしじゃないんだから! 

 いつか目に物見せてやる。

 結局この後も散々弄られ、疲弊した――させられた私は悟る。

 友達って怖い、と。


 そんな談笑に水を差した人物がいた。

 間宮千鶴である。

 私は彼女の事を「リトル真希」と心の中で呼んでいた。

 意地悪で高慢な態度が真希にそっくり。


「アナタ、今、映画の撮影中じゃないの?」

 高圧的な態度は、私の正体を知った後でも相変わらずだ。

「今は撮影はお休みなの。仕事をサボったりはしないわ」

 スランプで瑞樹の家に逃げ込んだことは口が裂けても言えない。

 瑞樹にも後で墓場まで持っていくように言っておかなくちゃ。あと、赤崎くんにも。

「そう。随分と余裕があるのね」

 嫌味のつもりだろうか。そんな嫌味、私にはまったく効かないわ!

 澄ました顔で「そんなことないわよ」とでも、一言返しておこうかと彼女の目をしっかりと捉える。


「――確かに、あなたに余裕があるとは思えないわね」

 予期せぬ声に私は「は?」と間抜けな顔を晒す。


 メンバー中、断トツの変わり者、逢里詩乃は言った。


 あなた――私には余裕がない、と。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る