第401話 今夜は眠れない

 引っ越し決定等も兼ねて、いつも以上に盛大に騒ぎ倒した後。

 自分の部屋に戻ってパソコンを立ち上げたら、背後から声をかけられた。


「オサム、向こうで由香里さんが呼んでいるれすよ」

 何だろう。

 俺はジェニーについて行く。


 向こうというのは旧田奈邸の応接室部分だった。

 今はバネ工場に置いていた応接セットが置かれている。

 いる面子は、由香里姉、風遊美さん、ジェニー。


 何かいやな予感がする。


 例の清涼飲料水、いやこの面子は成人済みだからもうこの表現はいらないだろう。

 サングリアや梅酒やキールやまあそういった甘くて飲みやすい酒とチーズ類がテーブルに並んでいる。

 更に言うと、由香里姉と風遊美さんは既に顔色が赤い。


 これはきっと危険だ。

 逃げられなさそうだけれども。


「来たわね、悪の元凶。駆けつけ3杯よ」

 いきなり厳しい。


「何ですか一体」

「オサムに振られたご一行様の残念会なのれす」


 何だって!

 確かにそう言われると、この面子は……

 とっさに何か言い訳を言おうと考えるが思いつかない。


「言い訳は無用だからね。これでも香緒里の姉と修の姉貴分をずっとやっているんだから」


 そう言われても、俺も香緒里ちゃんも誰にも何も言っていないし、表面的にも実際にも今までと関係が変わった訳では無いけどな。

 風遊美さんが口を開く。


「修さんは気づいていないかもしれないですけどね。香緒里さんの動きがもう、前と違うんですよ。前は修さんの方を時々心配げに確認したりしたのですけれど、ある日から突然そういう動きが無くなって。修さんがほかの女の子と話したりしていても、前は少し心配げに見てる事もあったのに今は普通に笑顔で見ているし。

 逆に修さんは前以上に香緒里さんを意識するようになりましたね。自覚はないのでしょうけれど、よく見ればすぐわかります」


 そうなのか。

 俺は全く意識していなかったぞ。


「更に言うと、告白したとおぼしき時間と場所も特定されているれす」

 攻撃は更に続く。


「具体的に聞くわよ。1月30日金曜日、修は何処で何をしていたの」


 1月30日金曜というと、1月最後の金曜だから……


「この部屋の件を聞きに田奈先生の研究室に行った日ですね」

「香緒里とね。その後マンションに帰ってくるまで何処で何をしていたのかしら。香緒里と一緒に」


「バネ工場でここを買う話について香緒里ちゃんと相談をしていただけですよ。

「本当にそれだけかしら」


 由香里姉はそう言うとジェニーに何やら目で合図する。

 ジェニーが応接セットのテーブルの下から取り出したのは、ソフィーがよく使っている怪しげなデータ取得用パソコン。

 例の薄型検知器も当然用意されている。


「ソフィーに聞いているので私もこれを使えるのれすよ」


 おいジェニー、ちょっと待て。

 何を聞く気だ。


 更に悪いときには悪い事が起きる。

 白ワインの瓶3本を持った悪魔、じゃなかった黒魔女が部屋の入り口から顔を出した。


「差し入れでーす。で、この会は何の会?」

「修に振られた被害者の会による、修糾弾会場よ」


 黒魔女はその名にふさわしい悪そうな笑みを浮かべる。

「面白そうね。私も参加していいかしら」

「差し入れに免じて参加を許可するわ。さて修、準備はいいかしら」

「この検知器を手に持つれすよ」


 何だ。どうしてこうなった。

 逃げ場は無いのか。


「香緒里ちゃんは?」

「あの子は大切な妹ですもの。幸せになるのは私も嬉しいわ。だから糾弾するのは修だけで十分よ」


 おいおい、そんなのありか。

 でも誰も助けてはくれなさそうだ。


 香緒里ちゃんは来なさそうだし、風遊美さんは既に酔っているし。

 あと理奈ちゃんと沙知ちゃん、メモもってそこで隠れているの反則!

 こっから見え見えだから。


 明日も学校は休みだから時間はいくらでもある。

 俺の長い長い夜は終わらない……

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