第367話 約束(2)

「という訳で一段落したら田奈先生の処に戻ってやってくれ。あれでも俺の恩師なんだ」

「いいのですよ。どうせ当初からその予定なのです」


 詩織ちゃんはしれっとそう言い切る。

 おいおい、俺と田奈先生の立場が無いじゃないかそれでは。


 でもまあ少しだけ安心している自分がいる。

 それもまあ、癪に障らない訳でもないのだが。


「あと、杖をちょっと貸してくれ」

「新しいのが出来たのですか」

「いや、新型はまだだがちょっとやりたい事がある」


「取り上げたりはしないですよね」

「取り上げないから」


 詩織ちゃんは例によってどこからともなくヘリテージ2号を取り出す。


「できるだけ早く返して欲しいのです」

「すぐ終わる。3分位かな」


 俺は自分のヘリテージ1号を構え、ヘリテージ2号に修復魔法をかける。


 無論ヘリテージ2号が壊れている訳ではない。

 だが、これを作った時点より俺の知識は更に進化している。

 だからヘリテージ2号もより進化し、最適化された形に修理される筈だ。

 効果は俺の1号や風遊美さんの3号で既に実証済み。


 そして。

 ほぼ何も変わらない外見のまま、魔法が終了する。

 だが俺の審査魔法は確かな進化を確認していた。


「ほいよ。自分で確認してみな」

 詩織ちゃんは2号を手に取る。


「ん、微妙だけど確かに何か違うのです」

「負荷をかけた領域で連続使用する際の効率が若干良くなった筈だ。まあそんな使い方はあんまり望ましくは無いけどな」


 ちなみにこれは風遊美さんがお姉さま軍団にこき使われ、新宿だの大阪だのデパート廻りさせられた時のデータを元にした改良である。

 なお詩織ちゃんが奈津希さんと戦った時のデータも当然確認分析済みだ。


 ヘリテージはあくまで試作杖なのでデータロガーも内蔵している。

 1号だけでなく2号、3号ともにだ。


 何でも使える物は使うのだ。

 風遊美さんがこき使われたデータだろうと詩織ちゃんのバトル記録だろうと。

 それが明日を掴む糧となるのなら。


「とりあえず杖の方はそれが現状での世界最強だ。約束は果たしたからちゃんと持ち帰れよ」


 それ以上は言う必要は決して無い。

 詩織ちゃんもわかっている筈。


「で、次の新作杖はいつごろ完成の予定なのですか」

「順調に行って5月末から6月頭だな。ただ第1段階ではこれとそんなに性能変わらないぞ」


「少しでも性能向上すれば充分なのです。取り敢えずはピラミッドを見に行くのです」

 おいおい。

 そう思いつつも俺は少し安心する。

 詩織ちゃんがいつもの調子である事に対して。


 ◇◇◇


 そして、次の日の早朝3時頃。

 詩織ちゃんは誰にも何も言わず姿を消した。

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