第196話 初日は色々大変だ

 今年は曜日の関係で一週間近く学園祭の開催が早い。

 10月28日土曜日、ついに学園祭が始まってしまった。


 今年は例年より何故か来訪者が多い。

 いつもは使わない教員宿舎や高専の寮まで宿として使っている状態だ。

 まあそんな所に泊まっているのは他魔法特区の交流者等、半ば身内関係。

 だからあまり問題は無いのだけれど。


 ツアーで来ている豪華客船も今年は3隻。

 かなり広い岸壁もいっぱいいっぱい状態。

 それでも足りずに父島から臨時連絡船も出ている状態らしい。

 飛行機も通常2往復が4往復に増便している。

 うちの学園祭も初日からとんでもない入り様だ。

 となると忙しくなるのが裏方の宿命で。


「実行委原宿から学生会ジェニーさん宛。教室棟1-C前で迷子を発見。保護者の探知できますかどうぞ」

「学生会ジェニー了解。母親は南階段2階踊り場付近。実行委水天班長の直近れす。身長低め髪黒色ショート、服装は水色ポロシャツにジーパンれすどうぞ」

「水天傍受了解。該当者確認しました」


「実行委押上から学生会執行部宛。B3区画テニス愛好会テントが調子悪いそうです。対処いかがしますかどうぞ」

「学生会長津田了解。補修不能なら実行委の予備テントで対応お願いします。本日中に補修なり査定を行います」

「実行委押上了解」


 まあばたばたした状態だ。


 今は俺が学生会本部無線番。

 ルイス君は居合大会から改名した滅多斬り大会の最終予選に出場中。

 ジェニーとソフィーちゃんは取材をしながら迷子落とし物担当を兼任。

 他は視察やパトロールと称して学園祭を謳歌中だ。


「修兄お疲れ様です」

 香緒里ちゃんが戻ってきた。

 手に何か袋を持っている。


「まだまだゆっくり回ってくればいいのに」

「8日間ありますしね。これ江田先輩から差し入れ。人数分ないから今のうち」


 出してきたのはふんわりした感じの半生の焼き菓子。


「今いるお店で焼いたタルト・フロマージュだって」


 ふんわりしたいい香りがする。

 俺と香緒里ちゃんは1個ずつ取る。


「あ、凄く分かりやすく美味しい」

「本当です」


 チーズ部分はチーズの味が濃厚でちょっと香ばしさも出ていて勿論美味しい。

 下のちょっと硬くてサクサクした土台も美味しい。


「江田先輩、和菓子だけじゃないんだな」

「心ゆくまで修行したらこの島に帰って和洋菓子店を開くつもりですって。

 今の修行先は有名だけれど小さなお店で、色々な事をやらしてもらって勉強になるって言ってました。

 研究会のお店も順調みたいですよ。

 ただ玉川先輩が研究会の厨房で放心状態でしたけれど。

 あと市ケ尾部長が滅多斬り大会用の藁苞製造機のメンテにかかりきりになっていて、不在でしたね」


 市ケ尾部長、さては逃げたな。

 でも特訓を受けているのが玉川先輩というのは正解だと思う。


 玉川先輩はまだ4年で来年もあるし、通称『器用貧乏』とも呼ばれる程器用だ。

 持っている魔法も材料調整とか物質加工等で江田先輩に近い。

 だからこそ江田先輩に狙われて厳しい甘味特訓を受けさせられたのだろう。

 次世代の創造制作研の店を担う甘味職人として。


「まあ玉川先輩は壊れるのも早いけど復活も早いから心配いらないだろ。器用だし」

「そうですね」


 学生会に入らなければ俺が特訓を受けていたかもしれないし。

 事実1年の時は結構教え込まれたのだが、まあそれはそれで。

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