第22話

そして半年が経った。


「陛下、陣痛が来たみたいですっ!」

一人の近衛兵が執務室に慌てて駆け込んできた。執務室は一気に騒然となり、手伝いをしていたアオも立ち上がる。

「では、いってらっしゃい。頑張ってきてくださいね」

緩やかにほほ笑んだのはセツの夫となったアベルである。

出産時には夫以外の蝶は入室できないので、このままファロに代わって仕事をすることになっていた。


「はいっ」

一方、アオとセツは出産に立ち会うことになっていた。

妊娠しにくい蝶の子の出産は稀であるため、将来の勉強のために付き添うことになったのである。

アオは近衛隊長でありアベルの兄、カインと結婚し、親戚を呼ぶ手間が省けるとかで、ショウタが安定期に入ったころ同時にお披露目をした。

アオが執務室で働くことが増え、ショウタのお付きとしての実務はほぼセツがやってくれている。二人がいるであろうショウタの寝室に、ファロと連れ立って慌てて向かった。





「……ぅ、あっ……」

「ショウタ様、ゆっくり、深呼吸して。なるべく長くいきんで下さい」

部屋のドアが開かれると、中にはもう出産に備えているショウタと、かかりつけの産科医、おろおろとせわしないセツの三人がいた。


「ぁ、いきむ……って、無理ぃ……」

ショウタの顔からは汗が流れ落ち、蒸気した顔で必死に医者にしがみついている。

「代わる」

ファロはそう言ってベッドに腰を浮かせて座り込んでいるショウタの正面に回り、医者はこれ幸いとショウタの背後に回った。


「もう結構開いてますからね……あと一時間以内に生まれますよ」

蝶の子の出産時間は早く、初産でも平均して2~3時間で生まれてしまうらしい。

「破水は?」

「これからです」


落ち着いて対応する医者とファロを前にして、アオはただ所在なさげに立っているしかなかった。

「ん、ぁあっ……!」

ショウタの雄は切なげに立ち上がって震えていた。

そう、ショウタは出産の痛みに苦しんでいるのではなく、とてつもない快感に苦しんでいるのである。

「ふぁろっ……た、すけて……っ」

そりゃあもう、出産中に「死ぬ!」と叫ぶ人が絶えないほどの壮絶な快感らしい。


何でも蝶の子の卵の殻は母親の性器に内側から連結しており、それを引き離すときには性器を内側から直接刺激されるような感覚になるようだ。

陣痛というのは人間の出産時に一般的に言われている産みの痛みではなく、その快感に襲われ始めてもう生まれる寸前になったことを言うらしい。


「ご主人も来たことですし、破水させますね」

医者がまた前に回り込んで、ショウタの膨らんだお腹を上からぐっと押した。

「いやぁああああああっ!!!」

ショウタが目を見開いて暴れようとするのを、ファロが力で押さえつける。その瞬間に、ショウタの立ち上がったものから白濁した液体が噴出した。

「ひ、ぁ……あ……」

びくびくと震える体を押さえて、ファロがショウタの性器をゆるゆると刺激すると、残滓がとろとろと溢れる。実に九か月ぶりの射精で、ショウタはあまりの気持ちよさに意識がふっとんでいた。破水すると、卵の殻は性器から分断され、また母体は射精するようになるのである。

足の間からも液体が流れ出る。これは九か月間赤ん坊を守ってきた内壁だ。蝶と性交するたびに徐々にできていき、平均して2年ほどで完成するという愛の結晶である。しかし出産時には全て流れてしまうのだ。


「ショウタ、しっかりしろ、あと少しだぞ」

意識を戻すかのように、ショウタの頬をファロが優しく叩く。いきまなければ、破水しても卵は出てこない。

「ふっ、うっ……ぁあっ……」

ファロにしがみつき、長い髪をぱさぱさと揺らしながら、ショウタはいきんだ。いきむ度に内側が刺激されて、頭がぼんやりするほどいい。しかし産んでしまわなければ、この責め苦から逃れることができない。


「陛下、お腹を押してください」

見かねた医者が手をかすように言うのを、ショウタが泣きじゃくって嫌がった。

「やだっ、やめて、も、しなっ……ぁああああっ」

ファロが医者に代わって腹を押す。先ほどいったばかりのショウタの中心は、また力強く立ち上がり、涙を流していた。

しかしその甲斐あってか、足の間から薄い粘膜につつまれた何かが、わずかに頭を出している。


「ほら、ショウタ、呼吸を合わせろ」

「……ん、ひっ、ひっく……」

涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、ショウタはファロに縋りついた。その頭を優しく撫でて、もう一つの手をまた腹の上におく。

「俺が押すときにお前もいきめ。分かったな」

もう何も話す余裕のないショウタが、コクコクと必死で頷いた。

「せーのっ」


ショウタの悲鳴に続いて、セツやアオの歓声、そして赤子の産声が響き渡ったのだった。


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