第14話

「午後は出勤していなかったそうだが……何かきいたのか?」

カインがたまたま午後執務室に行く用事があったとき、アオはいなかった。アベルに尋ねると、午後に半休をとったのだという。そんなことは聞いていなかったので、驚いたのだ。

「必要だったら、明日も半休か全休をあげますので、いつでも言って下さい」

そう意味深に言われたので、具合いでも悪いのかと心配したくらいである。

そうしたら、アベルは皇太后に面会していると教えてくれた。


「皇太后さまに会って、あなたとの関係をどうしたらいいのか、相談に行きました。カインさんの両親のことも聞きました」

案の上というか、想定通りだった。通りで突然、こんな行動に出ることにしたわけだ。

「カインさんに同情したから、結婚しようとしているのではないです。ただ……あなたは、わたしがいなくなったら、死んでしまうような気がして」

アオが緊張で冷たくなった手を握る。思いを伝えるというのは、無口な自分には難しすぎることだ。

「わたしは、あなたを失いたくないと思いました……あなたが、好きだから」


自然とうつむきがちになっていた顔が、気づいたら顎をあげられて上向きにされた。そしたら、優しい、今にも泣きそうな顔とぶつかって、やっぱり自分は長い間カインを待たせてしまっていたのだと思った。

「……後悔させない」

「はい」

蝶の一族は、世界最強の戦闘民族。でも、愛情に関してはこんなにもひたむきで、弱さを持っている。今、カインの最大の弱点は、自分なのだ。


「うまいな……」

やっと安心したのか、カインが料理に手を伸ばした。赤飯は初め不思議そうにちょっぴりつまんだが、美味しいものと分かったのか、次からバクバク食べている。

「それはお赤飯と言います。アルルでお祝いごとがあるときの、特別な料理です」

アオも骨付きチキンを頬張った。アルルの鶏よりも、蝶国の鶏の方が丸々太っていて美味しい。二人はいつも通り晩餐を囲み、今日一日のことを話し合った。

こういう日がずっと続いていくのなら、結婚するのも楽しかろうと、アオはちょっぴり思った。




「……緊張してるか」

「うん……」

代わりばんこにシャワーを浴びて、アオはカインの部屋にやってきた。カインの部屋の中に入るのは初めてだが、以前家の中に入ったときの散らかり具合から、てっきり片付いてはいないのかと思ったが、意外にもすっきりしている。

「……お前がその内来るかもしれないと思ったから、片付けた」

そうやってアオのことをずっと待っていたのだと思ったら、切なくなる。


カインに引っ張られてベッドに座ると、優しい口づけが下りて来た。

ずっとおでこにしか触れてこなかったそれが、今はアオの唇を食んでいる。

何だかふわふわと心地がいいと思っていたら、するっと舌が入って来た。一瞬びっくりして体を引こうとしたが、顎に手をかけられて逃げられなくなった。

舌はアオの上あごや歯列をなぞって、口の中を探っていく。空気が十分体に入らなくて、段々頭が痺れたみたいにぼんやりしてくる。


「ふっ……ぁ……」

静かな室内に、自分の声だけが聞こえてきて、とても恥ずかしくなった。顔がかぁっと赤くなると、カインが大きな手であやすように背中を撫でる。

「心配するな。お前の声が聴きたい」

ぐっと肩を押されて、背中から仰向けに倒れた。以前はカインもシングルベッドを使っていたはずだが、いつの間にかダブルになっていて、体の大きなカインが寝っ転がってもまだ広い。アオは華奢な方だが、元々男二人で寝るためにできている蝶国のダブルベッドは、格別に大きいような気がした。

アオが引っ越してきてから、こうなる日が来ることを願って、こっそり買っていたのだろうか。


カインがどれだけアオを大切に思っているのか、伝わってくるような気がして、アオもカインが愛おしくなる。アオとは違って固い髪質の頭を撫でていたら、はだけられたバスローブの間からチラチラ見える、アオの胸の飾に吸い付かれた。

「んっ」

何だか不思議な感覚がする。そこを意識したことなんて、男だから人生で一回もないのだが、カインに愛撫されると、どんどんむず痒さが募っていくような気がする。


「はぁ……」

このもどかしい感覚をどうしたら良いのかよく分からなくて、逞しい首筋に腕を回して縋り付いた。カインはベッドサイドの引き出しから壺を引き出すと、指に垂らして馴染ませる。

その壺には見覚えがある。少しデザインが違うが、いつもアオがファロとショウタの寝室に補充していたものだ。

ただ、ふわっと香って来た香りが違う。少し覚えのある甘い香りがした。恐らく催淫作用のある薬品が入っている。ショウタと連日薬草づくりをしていたアオは、大体の薬草には通じているのだ。


「初めてだから、お前を傷つけないようにと陛下がくれた」

ファロ皇帝までもが自分たちのことを心配していたらしい。待たせていたのはカインだけでなく、周囲の人間にもかなり気を使わせたようだ。

指が一本、香油のぬめりを借りてアオの中に侵入する。まだ違和感しかないそれが内壁を蠢くのを耐えて、アオは少し笑った。

「必ずカインさんを幸せにして、皆さんを安心させなくてはなりませんね」

「もっと俺には気軽に話してくれないか。カインと呼び捨てにしていい。お前と夫婦になったんだから」


それもそうか、と思ったときに、指が二本に増えた。カインの太い指が二本あると、かなりの存在感がある。しかし段々香油の効き目が出て来たのか、体に変な熱がこもり始めた。

「んやっ……あっ……」

カインが突然触れて来たある場所で、電流が走ったみたいな感覚がした。もう一度触れられると、紛れもなく強い快感であると知る。

「あっあっ、あっ、んっ」

更に増えた指で集中的に攻められると、頭の中に靄がかかったみたいになって、息が上がった。思わず腰が逃げると、逃がさないというように押さえつけられる。


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