第2話

「まぁ息子達夫婦も皆の働きのお陰で一年経ったわけだ。どうだ、カイン、アベル、そろそろ嫁をとったら」

上皇はカインとアベルの二人を息子同然に扱っている。カインはファロと同い年で、今年31歳、弟アベルは27になる。確かに結婚するにはいい年ごろだ。ショウタの出身国アルルであれば、成人と同時に嫁をとることが多いので、カインとアベルの歳ではとっくに子育てを始めている。

「嫁取りに異国に行くなら、しばらく休暇を出すぞ」

ファロも言うように、蝶の一族は異種の男を嫁にとらなければならないため、嫁取りの放浪旅に出ることは普通なのだ。かくいう上皇も嫁取りのために視察をしていたところを、皇太后に一目惚れして強引に連れ去った経歴がある。


「いえ、俺は陛下にお世継ぎが生まれるまで、嫁取りの旅に出ることは考えてないっすから」

「わたしも兄と同じです。兄が優秀な嫁を連れて来れば、しばらく執務も空けられるかもしれませんんが……」

現実路線の二人はちっとも嫁取りに興味がないようだった。そもそも二人共責任感が強く、城を留守にすることが考えられないのだろう。


「じゃあ、嫁取りの旅に出ないで嫁が取れるならいいってこと?」

上皇が首を傾げて問う。確かに、それなら近衛隊長のカインが留守にしなくても、結婚することが可能かもしれない。

蝶国には蝶の一族と結婚したいがために、外国から嫁候補として入国し、結婚紹介所に登録している者たちがいる。また、外交関係のやり取りで、異国の貴族を迎え入れることもある。


「そうなんっすけど、結婚紹介所の奴らって下心見え見えでガツガツしてて嫌だし、自分の嫁で外交関係が動くのも嫌なんっすよ」

カインもカインなりに考えてはいたようだ。しかし、もともと人見知りなところがあるようで、相手に求める条件も厳しそうである。

「じゃあカイン、アオくんなんてどう?」

「え?」

「え?」

皇太后からの突然のフリに、カインもアオも固まった。

「……皇太后様がそのようなご冗談をおっしゃるとは思いませんでした」

ポテトサラダが喉に痞えそうになるのを何とかやり過ごし、アオが体裁を取り繕って言う。


「冗談じゃないよ。カインは要するに知らない人が嫌なんでしょう?アオくんならこの一年よく知った中だし、この間成人だってしたし、問題ないじゃない。お互い主君に忠実な臣下だし?気が合うんじゃないの?」

「た、確かに!いいじゃん、アオ!お前なら兄嫁としてアベルの執務も手伝えそうだし?最適だよ、最適」

皇太后の提案に真っ先に乗ったのはアオの上司、ショウタだ。

「そうだな。どうだお前ら、今更見合いも何もないからな。デートに一二回行ってみて、気が合いそうだったら一発決めてみるってのも……」

大真面目に下品な話で乗っかったのはカインの上司ファロだ。

悲しいかな、古今東西今昔、上司にこぞって言い寄られると弱いのが部下である。


「さっきも言いましたけど、陛下にお世継ぎができるまでは、誰とも付き合おうとか思ってませんから」

「わたしも同じです。ショウタ殿の出産を手伝うのが夢ですから。それまで誰とも一緒にはなりません」

何とかそう逃げた二人だが、周囲はますますこの二人は合うに違いないと確信したのだった。




「いやー、やっぱり意識はしてると思うんですけどねぇ~」

双眼鏡を手にして呟くのは、メガネっ子メイドのセツである。セツは『メイドは動きやすい格好』がモットーで、短い髪を後ろで1つ縛りにし、いつもピンで前髪を止めている。大きくてくりくりっとした目も、すこし癖のある髪もハニーブラウンだ。

晩餐会の話を聞いて以来、「アニキに恩返しする時が来た」と張り切っている。セツはショウタのお付きになってから、アオの指導を受けて働いて来た。世話になったアオを実の兄のように慕っていて、アオが近衛隊長の嫁になるならそれ以上のことはないと、ずっと二人の仲を取り持とうとしているのである。

しかし天然ドジっ子なので、いつも失敗してばかりいた。


「ええ、それは間違いないですよ。この間兄への要件で使いに出した時、目に見えてオロオロしていましたから」

蝶の一族は視力が良いので双眼鏡は要らない。弟アベルも同じ物陰からそっと頭を出した。

晩餐会終了後からやる気になったのは、早く自分の仕事を楽にしたい弟アベルも同じである。彼もアオが兄嫁になるのが一番だと結論付けたようで、セツと同じように二人の仲を取り持とうとしていた。

まず手始めにアオを自分付きのアシスタントにし、仕事を手伝ってもらうようにしたのである。アオはもともと執務に向いていたようで、アベルの仕事は一段と楽になっていた。


「いやーでも全然進展しねぇな、この二か月。お世継ぎお世継ぎ、そればっかりで」

ショウタも応援隊の一員である。しかしアオにはそれをダシにして逃げられてしまうので、あまり近寄れないところはある。

ショウタ、セツ、アベルの三人は、『カインとアオの仲を取り持つ隊』という名称で、日々キューピットになるべく活動しているのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます