Artifical Mermaid

柏沢蒼海

プロローグ:残してきたもの

 誰もが『良く戦った』と労ってくれる。


 俺が何人見殺しにし、俺が何回失敗したかも知らずにだ。


 俺は重大な任務を、最後の最後で失敗した。

 2年間も掛けて育んだ絆も、決死の覚悟で活路を切り開いてくれた戦友の尽力も、俺自身が感じていた想いすらも、そこで無駄にした。


 俺の腕の中で『物』になっていく彼女を、俺は何度も思い出す。

 そして、俺は自分に問う。


『俺は、最善を尽くせたか?』


 否、俺は何も成し遂げられなかった。

 それだけでなく、果ての無い戦いを終わらせることが出来なかった。これから積み上がっていく屍は、全て俺の責任になるだろう。


 それなのに、誰も俺を責めなかった。

 いっそ殺して欲しいくらいなのに、人々は俺に労いの言葉を投げてくる。彼等が本当に俺を労っているつもりが無いのは知っているが、その言葉でどうしても思い出してしまうのだ。



 最善を尽くせていたら、きっと彼女も守れていたんじゃないか。と――



 地上での戦いは収まり、地下で生活している人々は刺激を求めた。

 俺達が戦いの中で作り出した技術は、今では民衆のためのモーターショーだ。


 俺はそれに関わった。

 だが、それは俺の失敗を増やすだけに過ぎなかった。ただ、俺は戦い続けた。失った物を取り戻そうと、もう何も失わないようにと、ただ戦い続けた。



 俺は、幼い頃から兵士としての教育を受けてきた。

 だから、インテリとは程遠い。そのせいで多くの事を失敗してきた。


 俺は結局、ただ『戦う』ことしか出来ない。

 もう、これは変えられない宿命なのだ。だから、俺は戦う。


 誰かのために、自分の経験や技術を駆使する。

 

 それが、俺が生きている唯一の理由で、俺のせいで死んだ仲間やこれから死ぬだろう人間のために出来る事だ。


 今は、それで満足している。

 もう、失敗することに慣れた。この先、俺が失敗して失うのは俺自身の命だけでいい。


 まだ、俺は生きている。

 ――生かされている。


 誰かのために。

 自分のために。

 見知らぬ誰かの明日のために。


 俺は、戦う。

 

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