異国情緒のパラレルデート③ 不足のない今
◆ 川波小暮 ◆
およそ五〇分超に及ぶ電車の旅は、オレとしては非常に有意義なものになった。
なんだよ。生徒会っつーからお堅い集団なのかと思いきや、あっちこっちで匂うわ匂うわ。特にあの亜霜っていう先輩から元会長の星辺さんに向いてる矢印は、初対面のオレから見てもあからさまだ。
遊びでからかってるようにも見えるが、オレの目は誤魔化せねえ。要所要所で垣間見える本気の照れ、本気の喜び――小悪魔ムーブに隠されたガチ恋が、ひどくいじらしくて可愛らしい。
「くっくっく……」
「えっ? キモっ」
隣の暁月がドン引きの目を向けてきたが、まあ許してやろう。こいつがこの旅行に誘ってくれなけりゃ、生徒会のこんな内部事情なんて知りようがなかったんだからな。
今期の生徒会といやあ美少女揃いで大人気だが、ファンには悲報になっちまうな。そりゃあ誰だって、恋愛するなら近しい相手だ。ま、オレみたいな例外もいるが――
「みんな、降りるよー」
神戸駅より少し手前、三ノ宮駅で降りて、外に出る。
ドーンと京都タワーが聳えてる京都駅前に比べたら、パッと見は大して珍しくもない、商業ビルが建ち並ぶだけの街並みだったが、見覚えのない風景ってだけでも、異郷に来たという感覚がふつふつと芽生えてくる。何よりビルがでけえ。京都にはないからな、でけえビル。
「宿に行く前にどっか寄るんだっけか?」
と訊くと、暁月はスマホ画面を見せてきながら、
「異人館街だって。昔建てられた洋館がいっぱいあるところらしいよ」
「へー。洋館か。伊理戸さんが好きそうだな」
「そうそう。シャーロック・ホームズの部屋を再現したところがあるとかでさー」
面白そうじゃん。ホームズなら、オレも子供んときにちょっと読んだことがあるぜ。
「――うわっ!? 何これ!? ちょっ、見て見て! クソお洒落なスタバあるんだけど!」
「あん? おい、近すぎて見えねーって――うおっ、マジだ!」
暁月が見せてきた画像を見て、オレも目を剥いた。別にお洒落なカフェが好きなわけじゃねーけど、そこは洋館を改装したとかいうところで、まるで洋画の舞台みたいだった。
「ね、ね、これ行こーよっ! 結女ちゃんとか東頭さんたち連れてさー!」
「いいな! あの出不精どもに、スタバの注文の仕方を教え込んでやろうぜ!」
いえーっ! と、二人してテンションをぶち上げる。
昔からつるんでるだけあって、こういうときは気が合うのだ。最近は伊理戸さんに変なモーションをかけることもなくなって、警戒することも少なくなり、昔のような気楽な距離感を取り戻しつつあるような気がする。
正直、こいつの傍は居心地がいい。
あとは可愛らしいカップルだけ眺めていれば、オレは充分に満足だ。
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