きっとあなたが見守っているから① プライドにはプライドを
◆ 伊理戸結女 ◆
「明日より一週間、生徒会活動は休止となる」
一〇月下旬。二学期中間テストが一週間後に迫った今日、紅鈴理生徒会長は宣言した。
「各自勉学に励み、生徒会として恥ずかしくない結果を残すように。ちなみに、この生徒会室は顧問に申請すれば自習に使用することができる。生徒会役員のささやかな特権だ」
生徒会室の隅に座っている顧問の荒草先生が、「あまり来るなよ。めんどくさい」とダルそうに言う。荒草先生は生徒会室には最低限しか顔を見せない。『顧問は給料が出ないから嫌だ』だそうだ。その割には、
「ヘイ、アレクサ! 昼休みも来ていーい?」
「俺を探し出せたらな。それと、俺はアラクサだ」
という具合で、生徒(特に亜霜先輩)からは親しみを込めて接されている。厳格な進学校にあって、給料分しか仕事をしないという正直な態度がウケているのかもしれない。
「……ぬふっ♪ と来・れ・ばぁ~……♪」
荒草先生から言質を取った亜霜先輩は、今日も今日とて応接セットのソファーでスマホをいじっている星辺先輩のほうに向かい、すとんっとその隣に腰を下ろした。
「セーンパイ? またテスト勉強、教えてほしいんですけどー♪」
肩を触れさせるようにして擦り寄る亜霜先輩に、星辺先輩はちらりと目をくれた後、
「あー? 前にやり方教えたろ。あれで充分」
いじっていたスマホを仕舞い、鞄を肩にかけて、
「じゃあな。テスト頑張れよー」
あっさりと、生徒会室を出ていってしまった。
ソファーに一人残された亜霜先輩は、虚空に擦り寄った姿勢のまま、
「……少しは下心を持てぇ!!」
星辺先輩の巨体が消えたドアに、魂の叫びを放つのだった。
これでもめげないんだから、師匠は本当に師匠です。
明日葉院さんが呆れた溜め息をつく一方で、紅会長が亜霜師匠の肩にポンと手を置いた。
「ぼくが教えてやろうか、愛沙?」
亜霜先輩はぶすっとした顔で振り返る。
「イヤ。すずりんは頭良すぎて何言ってるかわかんない」
「前に教えたときは平均15点も上がったはずだけどね」
「はっきり言ってやろう! いけ好かないからヤだ!」
会長は苦笑して肩を竦めた。本当に頭のいい人は教えるのも上手いって言うもんなあ。私はちょっと教えてもらおうかな。
と考えていると、明日葉院さんがそわそわちらちらと、紅会長を見ているのに気付いた。
私は微笑ましくなって言う。
「明日葉院さん。教えてもらいたいならお願いすれば?」
「えっ!? ……い、いえ、自分の力でやらなければ意味がありませんから」
紅会長が振り返り、
「教えを請う力も実力の内だと思うけどね。見たまえ、愛沙なんてそれだけで生きている」
「誰が寄生するしか能のないラフレシア女だって!?」
「普段、そんな風に言われているのかい?」
それでも明日葉院さんは、大きな瞳を泳がせて迷っていた。けれど、それもやがて定まっていき、最後にぐっと瞼を閉じて、また開ける。
「……いえ。やっぱり、自分でやります」
それから、対面に座る私をギラリとした眼光で見据えた。
「そして今度こそ……! 伊理戸さん――あなたの上に行きますから」
その瞳には、本気の闘志が輝いていた。絶対に負けられない。これだけは譲れない。そんな情熱が宿った瞳だった。
かつての私も、水斗にこういう目を向けていたのだろう。
いつもなら、波風の立たない受け答えで流していた。だけど、これは明日葉院さんのプライドを賭けた戦いなのだ。そう思うと、適当な答えは口にできないと思った。
だから、私は初めて、彼女の闘志に正面から向き合う。
「うん。堂々と受けて立つわ」
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