君が見ている僕のこと⑫ 後方元カレ面

◆ 伊理戸結女 ◆


「え? 伊理戸弟?」

「さっきまで一緒にご飯食べとったんやけどなぁ、食べ終わったらどっか行ってもうたで」

「そうそう! 東頭さんと一緒にね! いや絶対付き合ってるってアレ」

「どんだけ言うねん」


 昼休みの終わり際、クラスのところに戻ってみたけど、水斗はいなかった。

 麻希さんや奈須華さんと一緒にご飯を食べたっていうのも驚きだけど、どうやら暁月さんが強引に連れてきたらしい。「東頭ちゃんと連絡先交換したわぁ」と奈須華さんが言っていたので、意外と上手くいったみたいだ。

 その暁月さんのほうは、この後の応援合戦に出るためにすでにいない。同じように川波くんの姿も見当たらなかったけど、水斗や東頭さんと一緒にいるのだろうか。


 仕事に戻る前に、水斗に少しだけ会いたかったんだけどな……。

 運営テントのほうに戻っている間に、応援合戦が始まった。


「フレー! フレー! あ・か・ぐ・み!」


 太鼓の音に合わせて、男女入り混じった応援団が勇ましい声を上げる。

 その中でもいっとう小柄なのが暁月さんだ。けれど、その堂々たる佇まいとキレのある動きから、周囲にまったく引けを取らない迫力を放っている。

 そんな彼女を見守る目が、校舎側の人目につきにくいところにあった。


「あれ? 川波くん」

「あ」


 私が話しかけた途端、川波くんはばつが悪そうな顔をした。

 人に見られたくなかったのかな? 暁月さんを見守っているのを。

 私は微笑ましくなってくすりと笑い、


「迫力出てるでしょ? すごく練習してたのよ、暁月さん」

「んー、まあ……チビにしては頑張ってんじゃねーの」


 川波くんは誤魔化すように頭を掻きながら言った。素直じゃないなあ、二人揃って。


「……黙っといてくれよ、伊理戸さん。バレたらあいつ、『後方彼氏面かよー』とか言って調子に乗るからよ」

「うん。了解」


 言ってから、ふと思いついた。


「それじゃあ代わりに、教えてくれる?」

「ん?」

「水斗と東頭さんって、どこにいるの?」


 すると、川波くんはニヤッと意地悪な笑みを浮かべた。


「なんだ? 気になんのか?」

「……えーと。ほら、一応、生徒会だから。サボってる生徒のことは把握しないとね」

「ま、そういうことにしておくか。簡単に教えるのはつまんねーけど……あー、もうあいつにはバレちまってるしな。別にいいか」


 そう呟いて、川波くんは校庭の横のほうを指差した。


「テニスコートの隅。静かで落ち着けるんだよ」

「そっか。……ありがとう」


 まったく、あの男は……本当に、生粋の社会不適合者なんだから。

 今は仕事があるから手が離せないけど、折を見て様子を見に行こう。


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