ゴールデン・ウィークエンド ガールズサイド


「……起きてるか?」

「ひぇあっ!?」


 いきなり扉の向こうから聞こえたノックと声に、私は思わず情けのない悲鳴を漏らした。

 い、今の声……あいつ? な、なんでこんな夜中に……。もしかして、あのことがバレた……!?


 思考が回り始めるその前に、私は自分の手元にあるものに気付いた。

 日記! こ、この日記を見られるわけには……!

 私は慌てて日記を引き出しの中に隠し、ついでに見られるとまずそうなもの(女子の部屋にはいろいろあるの!)を箪笥の中に放り込んだ。

 二度三度と部屋の中を見回してチェックする。大丈夫……大丈夫……大丈夫、よね? よし。


 扉に近付いて、軽く喉の調子を整える。動揺を悟られるわけにはいかない。せいいっぱい冷たい声で応対するのだ。


「……なに?」


 想定より摂氏3度ほど冷却が足りなかった気がするけど、とりあえず及第点。

 扉の向こうの義弟は、何も気付かなかった様子で言ってくる。


「ちょっと話したいことがある。……入ってもいいか」

「……好きにすれば?」


 よし。今のは完璧。我ながら冷酷無比。できればこれで帰ってほしい。

 しかし、願い届かずノブがガチャリと回った。私はなんとなく距離を取って、ベッドに腰掛けた。

 味気のないスウェット姿の水斗が入ってくる。この男は夜、あるいは休日の昼間も、いつもこの格好だ。

 扉を後ろ手にぴったりと閉めて、ベッドに座る私を見下ろした。


「何よ、こんな夜に」


 微妙に視線を外しながら、私は薄く嘲笑を浮かべてみせた。


「告白し直しに来たのなら、謹んでお断り申し上げるわ」

「……一応突っ込むが、昔、告ってきたのは君のほうだ。ラブレターの文面、今ここで諳んじてやろうか」

「覚えてるの? きもちわるっ」

「ああ、気持ち悪いな。あのポエム一歩手前の文面は」

「……クソオタク」

「……クソポエマー」


 私たちは睨み合う。

 挨拶みたいなものだ。


「……それで、一体何の用よ? 一応は家族とはいえ、一応は女子の部屋に、どうして入ってもいいと思ったのかしら? 事によっては出るとこ出るけど?」

「上等だ受けて立つ。が、その前にひとつ訊かせろ。君、今日、由仁さんになんか言ったりしたか?」


 どきん。

 と、心臓が跳ねた。

 や……やっぱりバレてる……!?


「…………別に、何も? というか、言ったって何?」

「嘘がへったくそな奴だな。それでよくやっていけてるな、高校デビュー」

「う、うるさいっ! 1ヶ月経ったんだからもうデビューじゃないでしょ!」


 いつまでもいつまでもネチネチネチネチ! そういうところが嫌いで別れたのよ! そういうところが!

 水斗はまるでバカを相手にするように溜め息をつく。む・か・つ・く……!


「今日の昼間、由仁さんに頼まれて買い物に付き合ったときに、ちょっと探りを入れられたんだよ」

「……探り?」

「僕と君の仲について」

「……………………」


 私は目を逸らした。

 な……なんのことだか……?


「由仁さんとしても、僕らがうまくやってるかどうかは気になるところだろうし、気にしすぎかもしれないんだが、ちょっと妙な雰囲気だったからさ。……君、なんかやらかしたろ」

「…………なん、にも?」

「こっちを見て言え」


 水斗はついさっきまで私が座っていた椅子を引っ張り出して、私の前にどっかりと腰掛けた。

 うわああ、絶対に逃がさないって顔してる……! もおおっ! ついこないだまでLINEすら無視してたくせになんでこういうときだけ!


「さあ、さっさと吐け。この件がはっきりしないと、僕はもやもやして眠れそうにもない」

「…………うるさい。寝不足で死ね」

「このままだと君も道連れということになる」

「ううううう…………」


 私は唸りながら枕を掴んで、口元を隠すようにして胸に抱いた。もう自力で表情を誤魔化しきれそうにもない。

 水斗は私の前で腕を組んだまま、貧乏揺すりを繰り返して取調中の刑事のような眼光を飛ばしてくる。弁護士を呼べと叫びたかったけれど、生憎、いかな敏腕弁護士といえど今の私を助けられるとは思えなかった。


 せめて黙秘権を行使して、私は明後日の方向を見続ける。

 しゃ……喋らなきゃいけないの?

 今日の私のミスを喋るってことは、一昨日撮ったあの写真をこの男に見せなきゃいけないってことだ。私があんな写真を後生大事にスマホに保存してるってことを、この男に知られるってことだ!

 む、むり……! 絶対無理! 死ぬ! そんなの!


「……い、いつまでそこにいるつもりなのよ……!」


 全力で帰れオーラを飛ばしたけれど、水斗は腕を組んだままあっさりそれを弾き飛ばした。


「君が自分の失敗を素直に懺悔すればすぐにでも出てってやる。僕も君も晴れて安眠だ」

「懺悔って……神父とは対極にいる存在のくせに……」

「僕をなんだと思ってんだよ」


 悪魔。いたいけで人見知りで根暗な中学2年生女子を誑かして人生を狂わせた悪魔。


「確かに僕は神父じゃないが、誰にも言わないことは約束してやる」

「…………(他の誰よりも、あなたに知られるのがマズいんだけど)」

「ますます興味が出た」

「地獄耳……!!」


 空気読んで聞こえなかったことにしなさいよ! そういうとこも嫌い!

 うう……。どうやら、逃げ切るのは不可能らしい。

 この大ポカを聞いて、この男がどういう顔をするか……。呆れるか、怒るか、あるいは見下げ果てるか。

 ……まあいっか。

 べつにこの男にどう思われようと、今さらどうってことないし。というか、そもそもこの男があんな格好で寝てたのが悪いんだし。私悪くない。

 言い訳に言い訳を重ね、開き直りに開き直りを連ねて、私はようやく、ぽつりと白状する。


「写真を……間違えて、お母さんに送っちゃったの」


 水斗は怪訝そうに眉根を寄せた。


「写真って、何の? …………まさか、中学のときのじゃないだろうな」

「ち、違う……! それだと一発でアウトじゃない!」

「それもそうか」


 あんなカップル感満載のやつ、絶対見せるわけない! というかこの男、まだ私があの頃の写真持ってると思ってるの? きもちわる! ……まあ持ってるんだけど。

 私は自分のスマホを操作する。……何度も、何度も躊躇いつつ、その写真を表示させて……水斗のほうに差し出した。


「…………こ、これ…………」


 水斗はスマホを受け取ると、眉根を寄せたままその写真を見る。

 私は、見ていられなかった。

 顔を背けている間に、居心地の悪い沈黙が漂った。


「……………………」


 凍りついたような沈黙だった。

 針のむしろのような気持ちになって、私は枕で自分の顔を隠す。


「はっ……? えっ? ああ!?」

「ううう~……!」

「こ、これっ、いつっ――あっ!?」


 珍しく動揺を露わにした水斗が、大きく声を上げて静止する。

 そのまま「ああ~……」と頭を抱えるようにしてうなだれた。

 ……思い当たったんだろう。私がこの男の寝顔写真を撮れる機会なんて、一昨日くらいしかなかった。


「……き、君……あのとき、家にいたのか……?」

「そ、そうよ……! 部屋の中に籠もってただけで……! リビングに降りてみたら、裸のあなたが眠りこけてて、びっくりして……」

「……びっくり?」


 冷えた視線を感じた。


「びっくりしたら写真を撮るのか、君は? 『うわあっ! びっくりしたあっ! パシャッ!』って? そんな奴いるか?」

「………………黙秘権を行使します」


 私は報道陣を振り切って黒塗りの車に乗り込む政治家のように、枕ですべての追及をシャットアウトする。

 だったらどう言えって言うのよ! 『寝顔がちょっと可愛かったから撮った』とでも言えば納得するわけ!? 事実無根なんだけど!


「…………これを、由仁さんに送ったのか」


 声と共に、さらに冷え切った視線を感じた。


「貴様…………やりやがったな?」

「~~~~~~っ!!!」


 私は枕に顔を押しつけて叫びながら、ばたーんとベッドに横倒しになる。

 弾けた感情の行き所をなくして、どたばたと足を暴れさせた。


「わ、わかってるわよおっ……!! それが一番マズい写真だってことくらいっ! わかってるから、わかってるから言えなかったんでしょーっ!?」


 お母さんは絶対誤解した。

 だって寝顔だもん。裸だもん。こんな写真を私が持ってるって、どう考えても怪しいもん!

 送ったのに気付いた直後に言い訳はしたけど、もう焦っちゃってなんて言い訳したのかもうまく思い出せない。スマホで見返せばわかるけど怖くて見れない!


 確かに、お母さんたちにはうまくやってるように見せようって決めた。

 でも、そこまでやってる風に見せたかったわけじゃないぃいーっ……!

 もしかしたら不健全って思われて、お母さんたち、同居やめちゃったりするかも……。


「うっ、ううっ……! ホントありえない……。こんな大ポカやるなんて……。笑いなさいよ、鈍臭い奴だって……。所詮は付け焼き刃の高校デビューだって……。本性は根暗でコミュ障でつまんない陰キャだって……。ううっ、ううう~っ……!!」


 ずーっと私を女手一つで育ててくれたお母さんが、ようやく頼れる人を見つけたんだから、絶対に邪魔したくないって思ってたのに……。

 うまくやれるって思ってたのに。昔の私とは違うんだって思ってたのに。なのに、こんな、単純なミス……。なんでいつもこうなるのぉ……。


「……とりあえず」


 溜め息混じりに水斗が言った。


「この写真消しとくぞ」

「うえっ?」

「ん?」


 思わず顔を上げると、水斗と目が合って、私は慌てて顔を背けた。

 私は平然とした振りをして取り繕う。


「そ、そうね……。そんな写真が入ってたら、私のスマホが汚れてしまうものね」

「丸2日も後生大事に保存しといてそれは無理あるだろ……」

「………………………………」


 私はすっかり思考を放棄して枕に突っ伏した。


「……もうダメ……。死ぬ。もう死ぬ。さようなら……」


 もうおしまいだ……。どうせ学校でもそのうちボロを出すんだ……。幻滅されて、友達がいなくなって、またぼっちになるんだ……。1ヶ月かぁ……。結構保ったなぁ……。

 気分が無限に沈んでいって、身体もベッドと一体化するんじゃないかと思えた。それもいい……。人間ってめんどくさいし……。ベッドになったほうがずっと楽だし……。


 パシャリ、と音がした。


「――えっ!?」


 私は飛び起きる。

 横を見ると、水斗が自分のスマホをこっちに向けていた。


「いま撮らなかった!?」

「あー、しまったぁー。いま撮ったばかりの写真を由仁さんに送ってしまったぁー」

「はあああああっ!?」


 いま撮ったって、私がベッドにうつ伏せになってる写真を!?

 私は水斗からスマホを見ると、その画面を見て愕然とした。


「……ほ、本当に送ってる……」


 パジャマ姿でベッドに寝そべる私の姿が、水斗のアカウントから、お母さんに。


「ど、どーするの、これ……! ぜ、絶対怪しまれる……!」

「大丈夫だろ」

「どこが!?」


 水斗はわざとらしく口笛を吹いて私の視線を受け流す。な、なんなのこいつ……!?

 ほどなくして、コンコン、と部屋の扉がノックされた。


「……水斗くん? 結女の部屋にいるの?」


 お母さんの声が聞こえるなり、ビクッと肩を跳ねさせる。

 や、やっぱり怪しまれたぁ……! どうするのどうするのどうするの!?

 下手に声を出せないまま水斗を睨みつけると、その男は『まあ見てろ』といった風の視線をこっちに送り、私のスマホを投げてきた。

 私が慌ててそれをキャッチしている間に、水斗が勝手に扉を開けて、お母さんを出迎えた。ちょっとぉ!?


「どうも、由仁さん」

「わ、ほんとにいた。……水斗くん? さっきの写真はどういう……」


 お母さんがちょっと背伸びをして、水斗の肩越しにベッドの上の私を見る。

 もうこの状況がマズいじゃない! こんな深夜に同じ部屋で男女が二人きりって、そういう関係じゃないとありえないし! そういう関係だったときでもなかったし! ……あれ? じゃあ実際、今こうしてる私たちは? ああもう混乱してきた……!

 こんがらがって卒倒しそうになる私を尻目に、水斗は堂々と説明した。


「本を借りに来たんですけど、そしたら結女さんが珍しく悩み込んでいて面白かったので、思わず送りつけてしまいました。すみません」


 う、嘘八百……! しかも後半だけ事実! 一番バレにくい形の嘘をしれっと! 別れてよかった!

 お母さんは首を傾げた。


「悩み? って?」

「由仁さんに変な写真を間違って送ったとかなんとか」

「あ! もしかして、あの裸の……?」

「はい。一昨日だったかに、僕がリビングで寝てたときの」


 なっ、なんで正直に喋ってるのー!?

 バカじゃないの? バカじゃないの!? バカじゃないのっ!?


「由仁さんに変な風に思われたかも、って、正直すごいどうでもいいことだったんで、とりあえずあの写真は消しときました」


 ど……どうでもいいことって……。私があんなに悩んでたの見てたくせに、どうでもいいことって……!

 お母さんは「ぷふっ」と口を隠して噴き出した。お母さんもなんで笑うの!?


「そうそう。その子、すっごい些細なことですぐ悩んじゃうの!」

「いいからさっさと寝ろと言っておきました」

「正解! ……でもねぇ」


 じろ、とお母さんの視線が私と水斗の間を交互に動く。


「水斗くん? 結女と仲良くしてくれてるのはわたしも嬉しいんだけど、こんな夜に部屋で二人きりっていうのは……」


 私は身を固くする。

 やっぱり。やっぱり怪しまれてるじゃない……! ああああ、どうしよう……! どうやって取り繕えばいいの……! 言い訳のしようが……!

 思い悩む私をよそに、水斗はきょとんと首を傾げた。


「もしかして、怪しまれてますか?」

「そりゃあ、年頃の男女だし……ねぇ?」

「そういう意識があったら、こんなに平然としてられないと思いますけどね」


 お母さんはしばらく、水斗のことをじっと見た。

 私の位置からは水斗がどういう顔をしているのかわからない。だけどたぶん、飄々と愛想笑いでもしてるんだと思う。


 ……いいなぁ。

 私にも、この人くらいの胆力があったら。自信があったら。

 こう思うのも……中学の頃から数えて、何度目だかわからないけど。


 私は沙汰を待つ囚人のような気持ちで、お母さんが喋るのを待った。

 ドキドキと早鐘を打つ心臓の音を聞いていると、やがて、


「確かにね~!」


 と、お母さんがぱっと明るく笑った。


「考えすぎだったかしら。ごめんね、水斗くん。疑うようなことを言って」

「いえ。僕も考えが足りませんでした」


 二人は互いにぺこりを頭を下げる。その流れで、水斗が部屋を出た。


「じゃあ、僕はこれで。おやすみなさい」

「あ、おやすみなさ~い」


 そのまま水斗は自分の部屋のほうに行って、お母さんも私に軽く手を振ってから階段を降りる。夫婦の寝室は1階にあるのだ。

 ばたんと扉が閉じて、お母さんの足音が消えた。


「……はあああああ~~っ」


 一人きりになって、私はようやく、長い安堵の息をつく。

 どうにか、なった……の?

 でも、あんな、正面突破みたいな、あっけらかんと――


 手の中のスマホが震えた。

 私はすぐさま応答して耳に当てた。


『ほら、大丈夫だっただろ』

「なんてことするのよっ!」


 私は一発目から叫ぶ。

 何が『ほら』だ! 簡単に言って……! 私がどれだけ冷や冷やしたか!


『こそこそ隠れるほうが怪しいんだよ。堂々としてるのが一番なんだ、結局』

「そうは言ってもね……!」

『そもそも』


 断ち切るような声に、私は口を噤んだ。


『僕らにそういう感情がないのは、ただの事実だ。……そうだろう?』

「…………まあね」


 その通りだ。

 私たちにそういう感情は、もう、ない。

 私たちはそういう関係では、もう、ない。

 寝顔写真を持っていようと、深夜に同じ部屋にいようと、それは厳然たる事実。

 だから何も隠す必要はない。

 ……その通りだった。

 腹が立つくらいその通りだった。


「火のあるところにしか煙は立たないしね? 私たちには、むしろ液体窒素が滞留してるくらいだものね?」

『それはそれで煙が出そうだが……まあ、そういうことだ。いちいち気にするのはもうやめろ。それができないならさっさと寝ろ。僕から言えるのはそれだけだ』


 ……少しだけ、昔のことを思い出す。

 中学の頃も、私がこうやって悩んだときは、伊理戸くんが相談に乗ってくれた。そのおかげで、ずいぶんと心が軽くなったものだ。あの頃は、もっと優しい言い方だったけど。

 ぶっきらぼうな言い方は、私たちの関係の変化を、否応なしに突きつけているかのようだ。

 私たちは、もう彼氏でも彼女でもなくて、……ただの義理のきょうだいで。

 それでも、ただ言い方が変わっただけで、彼はあの頃のように、スマホの向こう側にいる。

 それは…………。


「………………あり、がと」


 掠れた声でそう言うと、通話の向こうで、息を詰まらせる気配があった。


『…………明日から学校なのに、雪でも降りそうなこと言うなよ』

「バカ。……おやすみ」


 通話を切ると、私はぼふっとベッドに倒れ込む。

 枕に頭を埋めたまま、スマホの画面を見る。通話終了。0分53秒。1分にも満たない時間だったのか。


 ……4日前の記憶が、脳裏に過ぎる。

 雨の中、私に傘を差し出した、あの男の顔が過ぎる。

 恋人は、いつか別れる。

 友達も、いつかいなくなるかもしれない。

 夫婦さえ永遠ではないことを、私たちはよく知っている。


 だったら、きょうだいは?


「……………………」


 益体のない話だった。

 私たちは連れ子同士だ。法的には赤の他人。もし――今のところはなさそうだとはいえ――お母さんたちが別れでもしたら、きょうだいでも何でもなくなる。

 でも、きょうだいである限りは。

 どれだけ喧嘩しても、幻滅しても、……仲直りが下手くそでも……。


 不意に、LINEの通知がポロンと表示された。

 あの男からだった。


〈おやすみ〉


 ほんの少し間が空いて、


〈もし雪が降ったら、傘くらい貸してやる〉


 ――ああ。

 貸して、くれるらしい。

 4日前みたいに。他の誰にも、借りられなくなっても。


 私は返事を打った。


〈バカ〉


 ――でも。

 あなたに頼るばかりじゃダメだって思って、頑張ってきたから。


〈二度と忘れないって決めてるから、大丈夫〉


 返事はなかった。

 べつによかった。

 スマホの画面を消して充電器に繋ぎ、瞼を閉じる。


 明日から学校だ。

 この調子なら、きっと晴れてくれるだろう。

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