第324話 過去から続く製粉技術
ガサガサと音を立てながら、風車の中を探索し続ける。
結果、風車の羽根に繋がっているであろう市中付近には辿りつけたが……そこには特に何も無かった。
「というか、ここの支柱は動いてない?」
『そうですね。もしかすると上の階なのかもしれません』
「となると……戦闘が終わるまでは待機、かな?」
そう言って、僕は無造作に積まれていた木箱の上へと腰を落とす。
そうしてシルフと2人で、ボーッとすること10分足らず。
ようやく静かになった2階から、ラミナさんが顔を出したのだった。
「アキ、何かあった?」
「いや、なんにも無かった」
「そう」
「まあ、目当てのものがあるわけでもないし、何かあったら御の字くらいだったからね」
僕の言葉を聞いて、ラミナさんは納得したみたいに頷く。
そんな彼女に少し微笑みつつ、僕は2階への階段へと足をかけた。
「……こっちは整理されてるんだね」
「ん」
1階よりも少し小さい部屋の左右には窓があり、僕は灯りを求めてその窓を開け放つ。
すると気持ちのいい風が部屋へと吹き込んできた。
まぁ、それはつまり、部屋の埃が舞ったとも言えるんだけど。
「あ、やっぱりあった」
「筒?」
「部屋が明るくなって気づいたんだけど、この部屋……たぶん下の部屋も天井が少し低いんだよね。だから多分、次の階にはアレがあると思うよ」
天井から伸びている筒は部屋の中央へとその口を固定されていた。
その下には、木箱1箱分程度の高さがあることから、僕は自分の考えがあっていたことに安堵する。
筒の状態を見るに、手入れもされてそうだしね。
「アキ、次行く?」
「うん。行ってみようか。魔物の気配はある?」
「一応ある。でも1匹」
「なら僕も一緒に上がるよ。多分3階はそんなに広くもないだろうし」
僕の言葉に無言で頷いて、ラミナさんは先導するように前に出る。
そして、3階へと上がった瞬間に彼女は駆け、左手の盾で何かを壁へと押しつけると、そのまま右手の剣で刺し貫いた。
……その間、僕は何が起きてるのかを理解するだけで精一杯だったが。
「終わった」
「……そ、そう。早いね」
「さっきも戦ったから」
簡単に言ってのける彼女に、僕はなんとも言えない気持ちになってしまう。
だって、さっきは3体が相手だったこともあるけれど、全部で20分近くかかってたのに、2度目だからって瞬殺できるとか……。
いや、不意をついての拘束が上手く決まったからなんだろうけども。
「そういえば、ここにいる魔物ってどんな魔物なの?」
「……分からない」
「え?」
「暗いからよく見えない。でも、目が光るから場所は分かる」
どうも、気配を察知するスキルと、暗闇でも光る目の2つを目印に、動いていたらしい。
つまり、2階での戦いは、見えない中での相手の攻撃を警戒していたことで、なかなか攻めに転じれなかったのが長期戦になった理由と。
だからそれを活かして、今回は相手に動く隙を与えず、一気に詰め寄ったようだ。
……いや、やろうと思っても、なかなかやれないと思うんだけどね?
「ま、まあいいや。2階にもあったってことは、たぶん3階にも窓が……あったあった」
「こっちも」
言いながら2人でそれぞれ別の窓を開ければ、さっきよりも強い風が部屋の中へと吹き込んできた。
窓から見える景色も、先ほどよりも高い位置なこともあって、より遠くが見渡せる。
視界の先に見えるイルビンの街に、僕は“何気にあんなところから来たんだ”と、ちょっとだけ驚いたりもしていた。
「アキ、これって石臼?」
「ん? ああ、うん。風車の羽根を利用した石臼だよ。風邪の力で真ん中の木が回転して、石の溝の中を丸い石が転がっていくんだ」
「すごい」
詳しく説明すると、風車の羽根が回る方向を縦方向として、その羽根の力を歯車を合わせて横方向へ変換し、この部屋の真ん中にある丸太のような木に伝えると、その場でくるくる回るようになる。
そんな丸太に石のタイヤを――まるで車のシャフトとタイヤみたいにセットして、石のタイヤが動く場所に、同じく石で出来たレーンを配置。
そうすれば、石のタイヤが動くだけで、石臼で挽いたみたいな現象を起こせるっていう感じだ。
確かこういうのは、西洋の歴史の教科書で見た気がする。
「普通と違う形」
「そうだね。石臼って言うと、どっちかって言えば、横向きにした丸い石を擦り合わせてゴリゴリするイメージが強いかも。でも、こうやって石の車輪とレーンで製粉する道具は調薬とかだとよく使うらしいんだ。名前は確か……
「聞いたことはある。でも見た事はない」
「僕もないなぁ……。だから、もしあるなら手に入れたいかも」
それこそ、生産職の人にお願いすれば作ってくれたりしないだろうか?
んー……でも、石の加工って誰にお願いすれば良いんだろう……?
「アキ」
「ん? なに?」
「目的地、もうひとつ上の階」
「あ、そうなんだ。それじゃ行こうか」
ラミナさんの言葉に考えるのを止めた僕は、先導する彼女の後ろをついていく。
最上階である4階は、ほとんど歯車や機械的なものに埋め尽くされており、魔物の気配は全くないらしい。
そんなわけで、楽な気持ちで4階へと上った僕は……ラミナさんが作動させた天井への絡繰り階段にかなりびっくりすることとなった。
「……こ、こんな仕掛けがあったんだね」
「ん。ここから出ると、屋根の上に出れる」
「なるほど。落ちないと良いんだけど……」
「たぶん大丈夫」
言いながら上っていく彼女の姿を見つつ、僕は姿を見せずついてきているシルフへと「……何かあったときはよろしく」と、力強く頷く。
そんな僕の言葉に、シルフは『お任せください!』と、両手に握りこぶしを作りながら、強く返してくれた。
そんなこんなで、僕がラミナさんの後に次いで絡繰り階段を上れば、そこにあったのは――。
「……すごい」
「ん、すごい」
眼下から広がる、緑一面の大パノラマ。
僕らの通ってきたであろう道から少し外れた場所には森が見え、3階から見えたイルビンの街の向こうに広がる平原も見える。
天井が低い関係で4階建てになってはいるものの、高さ自体は2~3階程度しかない風車小屋。
しかし、付近には同じか、それ以上の建物なんて1つもないだけに、そこにはまさに遮るもののない、絶景を生み出していた。
「ここなら遠くが見える」
「うん。……あ、ほらラミナさん見える? イルビンの街のあたりで戦ってる人がいるよ」
「見える、気がする」
「結構な距離が離れてるからか、大きさが米粒くらいになってて、なんだか面白いね」
遠くを見て楽しむ僕の横で、ラミナさんもキョロキョロと辺りを見渡して、時々僕の服の袖を引っ張ってくる。
そんな、現実世界ではなかなか出来ない体験をしていた僕らは、1時間ほど経ってから、「そろそろ帰ろうか」という、僕の言葉をきっかけに屋根から降りるのだった。
なお、僕がそう言った理由としては、そろそろ出ないと、門が閉まる時間までに帰れなくなる可能性があったのと……。
新しく<千里眼>を入手していたからだった。
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名前:アキ
性別:女
称号:ユニーク<風の加護>
武器:木槌
控え武器:草刈鎌・ノミ・ツルハシ・伐採斧・牛刀
防具:ホワイトリボン
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トレッキングブーツ
スキル:<採取Lv.19><調薬Lv.23><戦闘採取術Lv.15><鑑定Lv.7><予見Lv.5><集中Lv.7><喚起Lv.4><選定者の魔眼Lv.1><千里眼Lv.1>←New!
精霊:シルフ
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