第265話 精霊の魔薬
精霊にとっての猛毒――[精霊の魔薬]。
探していた答えが、こんなに簡単に見つかるなんて……僕の悩んでいた時間は一体なんだったんだろう……。
いや、最初に聞いておけば良かったんだけどさ……。
(アキ様……)
僕の気持ちが、念話みたいに言葉にしなくてもなんとなく伝わるからだろうか、シルフの声からは僕を気遣うような、でもなんて言葉にすればいいのかわからないような、そんな思いが滲み出ていた。
でも、僕の気持ちもわからなくはないでしょ?
重要な仕事を任されて、期待が大きくて、あれやこれやと試行錯誤して考えて……その時間が徒労に終わる。
いや分かってるんだ、最初に聞いておかなかった僕が悪い、こんな思いは僕の自分勝手な八つ当たりみたいなものだって。
それでも、その上で……やっぱりやるせなさは感じてしまうんだ。
「ふむ。その[精霊の魔薬]とやらは、すぐに作れる物なのでござるか? そうであるならば、このアキ殿に任せれば、一も二もなく作り上げるでござろう」
「ん、ラミナもそう思う」
「……え?」
「なにを驚いてるでござるか。拙者とて、忍者の端くれ……情報収集はお手の物でござる。ゆえに、アキ殿が他のプレイヤーよりも、優れた腕を持っていることも掴んでるでござるよ」
断言するように言い切った忍者さんが、少し得意げな顔で軽く頷く。
少しだけ浮上した気持ちに、お礼を言おうと口を開いた僕へ、ラミナさんの腕が伸びてくる。
「アキなら大丈夫」
「ラミナさん……」
「悔しいのは、ラミナもわかる。でも、アキなら大丈夫。無駄じゃない」
その言葉に、僕の思いがバレていたらしいことに気付いた。
きっとそれはラミナさんだけじゃなく、忍者さんにも分かっていたのかもしれない。
「アキ殿。拙者はお主と進む道は違えども、心根は同じく、自らの望みのため歩む者でござる。ゆえに時折、厳しい局面や無力にあえぐことも……それはもう幾度も経験してきたでござるよ」
「……」
「しかし、拙者には仲間がいたでござる。拙者を助けてくれたリーダーだけでなく、同じ苦しみを持った者達がいたでござる。そしてそれは、アキ殿にもいるはずでござる。ならば此度の試練とて、いかようにも超えられるはずでござるよ」
「……ホント、なんでこの人はPKをやってるんだろう」
「い、いきなりのツッコミでござる!? 流れを無視しすぎでござるよ!?」
真面目な顔をしていた忍者さんが、僕の口から漏れた言葉に、わたわたと慌て始める。
いや、僕も言うつもりは無かったんだけど……気付いたら漏れてたね、ごめん。
「でも、ありがとう」
「む、うむ……伝わっているのであれば、良いでござるが」
照れを隠すように無理矢理に顔をキリッとしたものに変える。
でも忍者さん……さっきの慌てっぷりを見てるからか、今更過ぎると思うよ。
「ラミナも気になる」
「忍者さんがPKしてること?」
僕の袖を引っ張ったラミナさんの呟きに、顔を向けつつ訊ねれば、その顔が小さく上下する。
僕も気にはなるけど……たぶん教えてくれない気がするなぁ。
「ふっふっふ。忍びはそう簡単に、己の秘密を喋らぬでござる」
「だってさ」
効果音に、ニンニンと出そうなポーズを取りながら、忍者さんが僕たちから距離を取る。
それを見るラミナさんの目は、横から見てる僕でもどことなく冷たく感じるんだけど……向けられてる忍者さんは大丈夫なんだろうか?
「そ、そそそのような目で見られても、話さぬでござる!」
表情はほとんど変わらないけれど……いや、微妙に顔色が悪いような気もする?
でも大丈夫と言えば大丈夫そう?
『皆様、話を進めさせていただいてもよろしいでしょうか?』
「っ!」
頭の中に直接響いた声で、ハンナさんの存在を思い出す。
そうだった……[精霊の魔薬]の作り方を聞かないといけないんだった。
「え、えーっとすみません……」
『大丈夫です。今回最も重要な部分を担う方が、落ち込まれたままでは、この先も難しくなっていたでしょうから』
「うぐっ」
「アキ殿……見事にバレていたでござるなぁ」
「アキ、わかりやすい」
カラカラと笑う忍者さんと、無表情のままに頷くラミナさん。
くそう……今度仕返ししてやる……できるか分からないけど。
「あー、ゴホン。ハンナさん、続きをお願いします」
『かしこまりました』
まだ笑おうとする忍者さんを視線で制し、わざとらしく咳をして、僕は続きを促す。
そうして語られた内容は、またしても少し……面倒なことだった。
『先に申し上げておきますと、作り方はわかりません。本来あの薬は、ドライアド様が作られる[精霊の秘薬]というものがベースになっております。[精霊の秘薬]とは、減少し、不安定となった魔力を落ち着ける効果を持つ薬であり、それを毒性化させたものが[精霊の魔薬]なのです』
「作り方が、わからない?」
『はい。[精霊の秘薬]とは、元々ドライアド様の魔力が不安定となったときに使用する薬ですので、誤って毒性化させてしまわぬよう、私たち眷属には生成方法を知らされてはいないのです』
「なるほど……」
ドライアドのみが知っていれば、自己判断で生成し、使用することができるうえ、毒性化の条件さえ知っていれば、毒性化させず保管することもできる。
毒となれば危険……だからこそ、自らの管理できる最小限のエリアで管理していた、ということだろう。
「となると、困ったな」
「そうでござるなぁ……。せめて材料くらいは分かれば良いのでござるが」
困ったように頭を掻く僕と、腕組みして唸る忍者さん。
しかし、そんな僕らの悩みも……ある意味杞憂に終わることとなる。
それを知ったのは……続くハンナさんの言葉だった。
『材料ならばわかります。私が知らないのは、あくまでも作り方であり、材料ではないのです』
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